病気の発症と腸内細菌叢の密接な関係 | 旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2020年6月号

病気の発症と腸内細菌叢の密接な関係

腸内細菌は、長らく、暗闇のトンネルの中で蠢くばばっちいバイ菌達でしかありませんでした。それがこの10年ちょっとで、腸内細菌叢と私達宿主の間の様々な持ちつ持たれつの関わり合い、つまり生理作用や、免疫関連疾患(アレルギー、自己免疫疾患)、腸管疾患(炎症性腸疾患、偽膜性腸炎、過敏性腸疾患、大腸癌)、代謝内分泌疾患(肥満、糖尿病、脂肪肝・肝癌、動脈硬化症)、精神・神経疾患(多発性硬化症、自閉症、鬱・不安障害、パーキンソン病)等の多種多様な病気の発症にどう関わっているかが分かって来ました。
腸内細菌叢を制する者が、人生の質を左右し、牽いては世界を制するって事でしょうか。

 長い長いお話になるので、今月号は全身の恒常性制御に照準を合わせました。免疫と炎症時ついては、来月号か再来月号で特集します。乞うご期待!

常在細菌叢概論

 地球上に存在する生命体は、大雑把に分けると3種類。真正細菌(細菌)、古細菌、真核生物です。細菌は、地球上に最初に出現し(≒私達人間様の様な新参者ではない!)、地球上のほぼあらゆる環境に適応し、最も繁栄している生命体です。

 地球上の全バイオマスの1/3~1/2を占めていると言われ、私達人間も含む動植物達の体も例外ではありません。外部環境と接する皮膚や粘膜面をびっしり覆っているのが、膨大な数の共生菌群(常在細菌叢)です。特に、大腸は最近の生育にとって最適な環境で、地球上のあらゆる環境の中で断トツの細菌密集地。その総数40兆以上とされています。参考までにですが、他の部位に於ける人間の常在細菌叢の数は、約ですが、口の中が100億、皮膚1兆、胃1万、小腸1兆、非尿生殖器系1兆個です。人間の体細胞の数が約30兆個(←白人の成人男性の場合)なのを考えると、破格の数と言えます。

 メタゲノム解析によれば、健康な極々くフツーな人のうんこの中の細菌達の細菌遺伝子数の総計は約70万個とされ、寄生される側の私達の遺伝子数が22000しかない事を考えると、ナント、数十倍! つまり、多岐に亘る遺伝子を有する腸内細菌叢は、私達真核生物とは全く異なる独自の複雑な代謝系を有し、その代謝産物は、私達宿主の生理・病理に大いなる影響を及ぼします。

 唯、腸内細菌叢は、国や居住地域等によって異なります。確かに同じエリア内では、病気の患者さん、例えばⅡ型糖尿病の患者さんと、健康な人では、細菌叢は異なりはしますが、国や地域を超えて、患者さん達の腸内細菌叢に共通点が見られるかと言うと…全くそんな事はなく、寧ろ、夫々の国や地域の健康な人の腸内細菌叢の方が未だ類似性が高い組成を示すんです。悲しい事に、他の国、EUや米国、中国等と比しても、日本はそのベースとなる健常者のリファレンスデーターベースの整備自体が大きく後れを取っているのが現状で、患者さんの細菌叢について云々言えるレベルなんかではないんです。

 

常在細菌叢の生理と病理

 腸内細菌叢と寄生されている私達宿主との様々な関わり合い、つまり生理作用や、免疫関連や腸管、内分泌、精神・神経の病気等との関係が、この10年くらいで一気に知られるようになって来ました。

全身の恒常性の制御としての、宿主代謝制御

私達宿主は、腸内細菌叢の下僕でしかない…ならば?

 腸内細菌叢は、腸内環境だけでなく、私達宿主の恒常性すらも左右する真の支配者であると言う事実が、最近、この10年位でしょうか、急激に知られるようになって来ました。しかし、現在までの多数の知見から、食事が、腸内細菌叢及び代謝産物に影響を与える最大の要因なのは確固たる事実。って事は、私達宿主が、寄生させている腸内細菌叢から主権を取り戻す為には、食を制する事で、食-腸内細菌叢及びその代謝産物-宿主臓器間ネットワークの制御→腸内環境→代謝性疾患の予防・治療するしかないって事です、はい。

 例えば、肥満症の患者さんや肥満モデルマウスでは、Firmicutes門の増加とBacteroidetes門の減少が確認されており、この腸内細菌の構成が、宿主のエネルギー恒常性と密接に関わっているようです。また、中国やヨーロッパに於けるⅡ型糖尿病患者さんのコンフォート研究によれば、人種や食生活の違いをもろともせず?全てのⅡ型糖尿病患者さんでは、酪酸(美容通信2012年8月号)産生菌の割合が低く、反対に非酪酸産生菌の割合が多かったそうです。腸内細菌叢の変化が代謝性疾患と密接に関係しているのは間違いがないようです。

■外科的治療や薬剤で、菌叢が変化する!

  • 外科的治療(胃バイパス手術)

 重度の肥満やⅡ型糖尿病の有効な治療方法として、胃バイパス手術がありますが、これにより、顕著な体重減少や肥満軽減、インクレチン分泌増加によるインスリン抵抗性の改善が認められます。これらの代謝改善効果だけでなく、腸内細菌叢の組成も変化し、Proteobacteria門やVerrucomicrobia門が増加します。マウスの実験ではありますが、胃バイパス手術をしたマウスのうんこを、無菌マウスに移植すると、体重や体脂肪が減少するそうです。

  • 薬剤の投与

 抗生物質は、侵入した病原菌の撃退の為に服用するものですが、とばっちりではないですが、常在腸内細菌である以上、被害を免れる事は出来ません。Firmicutes門が、デブ(肥満)った人達のインスリン感受性に影響を及ぼすらしいって事は良く知られていますが、例えば、バンコマイシン(グリコペプチド系抗生物質)を投与すると、Firmicutes門は減少し、同時にインスリン感受性が低下します。マウスの実験でも、生後4週齢(離乳直後)のマウスに低用量の抗生物質を投与し、腸内細菌叢構成と機能変化を調べたところ、約6週間後では、抗生物質投与群のマウスは、非投与群のマウスと比較して、デブばっかだった(体重および脂肪重量の増加)だったんだそうな。

 Ⅱ型糖尿病の治療薬であるメトホルミンは、人種等に関係なく、インスリン抵抗性の改善と共に、腸内細菌叢の構成(Escherichia属やIntestinibacter属)に影響を及ぼしていたんだそうです。マウスの実験では、Akkermansia属や腸粘膜バリアに重要な杯細胞数の増加が確認されおり、メトホルミンによるインスリン抵抗性改善作用の一因として、腸内細菌叢の構成変化が関与していると推察されます。

 

■何を食べるかによっても、菌叢は変化する

 人間とその個人に寄生する腸内細菌叢は、持ちつ持たれつの、生まれながらの運命共同体。腸内細菌にしてみれば、上手に食環境に波乗りしなければ、船もろとも沈没の憂き目に遭ってしまいますから、臨機応変で高度な操舵術が要求されます(笑)。何を食べたか、つまり摂取した食事の種類によって、その構成をカメレオン的な劇的変化させ、腸内細菌の代謝産生物の代謝パターンを制御して、私達の生態恒常性維持に関与しているのです。

  • 食物繊維・オリゴ糖

 野菜や穀物を中心とした食事をしている人達の腸内細菌叢は、難消化性多糖を分解出来るPrevotella属やLachnospira属が沢山棲息しており、その代謝産物である短鎖脂肪酸も体の中で高濃度に存在しているんだそうです。反対に、肉ばっか喰ってる所謂肉食獣の人々では、Ruminococcus属や連鎖球菌等が増え、腸内細菌代謝物のうちでも有り難くない代表格の一つであるTMAO(←心血管疾患の原因!)が高濃度で検出されるそうです。

 幸いな事に?不幸な事に?腸内細菌叢の構成変化は、短時間で劇的に変化します。天国にも、地獄にも、臨機応変に双方向性!って奴です。研究報告によれば、健常者に対し、5日間、「動物性食品を食べ続けさせた群」と「植物性食品を食べ続けさせた群」に分けて、両者を比較したところ、前者の動物性食品を食べ続けさせた肉食獣群では、胆汁酸耐性を示す22種類もの菌種(Alistipes属やBacteroides属等)が増加したそうです。反対に、植物性食品を食べ続けさせた草食君♪群では、食物繊維を分解する様な菌種(Roseburia属やEubacterium rectate等)が増加しました。が、夫々の食事制限を解除すると、これだけガラッと様相を変えた腸内細菌構成も、試験開始前の状態に、たった1日で戻ってしまったそうです( ;∀;)。

  • 食用油

 食事中の飽和・不飽和脂質の組成とその脂肪酸の質も例外ではなく、腸内細菌叢の変化に寄与し、肥満やインスリン耐性の増悪に影響します。DHAやEPA(美容通信2010年6月号)の様なω3系多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれているお魚さんの油を食べさせたマウスでは、Akkermamsia属、Lactobacillus属、Bifidobacterium属等の増加が認められたそうです。飽和脂肪酸リッチ!なラード摂取群では、Bilophila属やBacteroides属の増加に伴う、血中エンドトキシン濃度の上昇と、脂肪組織の炎症やインスリン抵抗性が認められたそうです。

  • ケトン食・飢餓

 飢餓やケトン食の様なケトン体高産生状況下でも、腸内細菌叢は著しく変化します。絶食により、Verrucomicrobia門に属するA. muciniphilaが増加します。断続的断食(美容通信2020年5月号)(美容通信2016年3月号は、体重増加抑制、寿命延命に有効とされていますが、腸内では、Firmicutes門が増え、その分他の門が減るそうです。この比率の変化が白色脂肪組織のベージュ化(美容通信2018年8月号)に関与し、それにより、デブ(肥満/体重増加)化に歯止めが掛かります。ケトン食とは、低炭水化物食事療法(炭水化物の摂取の比率や摂取量を制限するダイエット療法)で、食事血糖値の上昇を最小限に抑え、カロリー過多になるのを阻止してくれるので、肥満や糖尿病の治療に効果的とされています。この時もまた、A. muciniphilaの増加と、Parabacteroides属菌が増えているそうです。

 

腸内細菌と、その宿主である私達とのクロストーク

 腸内細菌叢が変化したから病気になったのか、それとも病気の挙句の結果として腸内細菌叢が変わらざる得ない状況になったのか、はたまた、腸内細菌叢と宿主の談合(クロストーク)?協議?の結果なのか…まだまだ、しっかり解明されていないが現状です。しかし、マウスを使った様々な研究報告によれば、どうも腸内細菌自身が、宿主とのクロストークを行う事で、宿主の代謝機能を制御しているようです。

 例えば、腸内細菌等の細胞壁構成成分を認識するTLR2やTLR5は、宿主の炎症や免疫を介するパターン認識受容体ですが、エネルギー代謝にも関与しています。TLR5欠損したマウスは肥満やインスリン抵抗性を呈しますが、ナント、このTLR5欠損マウスの腸内細菌叢を普通!のマウスに移植すると、TLR5欠損マウス同様にデブ(肥満)化してしまいます。つまり、TLR5シグナルは腸内細菌叢の変化に重要な役割を果たしていて、その結果、宿主のエネルギー代謝に関与するって事が分かりました。

 他にも、TLR2の欠損マウスも肥満やインスリン抵抗性を示します。彼らの腸内細菌叢も、肥満したマウス達と同様にFirmicutesの増加が認められましたが、抗生物質を投与によるFirmicutes毒殺作戦!で減少させると、肥満が改善してしまったそうです。

 

腸内細菌代謝産物と宿主への代謝制御

 腸内細菌自体だけでなく、彼らが産生した腸内細菌由来代謝産物は、難消化性多糖の分解、生体内外成分の代謝、ビタミン等の必須栄養素の産生等に関わっています。

■難消化性多糖類(オリゴ糖・食物繊維)

 腸内細菌の発酵により、食物繊維から、酢酸やプロピオン酸、酪酸等の短鎖脂肪酸が生じます。この短鎖脂肪酸は、私達宿主のエネルギー源であるだけでなく、体重増加抑制、摂食、糖質代謝改善、インスリン感受性亢進等、私達のエネルギー恒常性維持には必要不可欠な成分なんです。

■胆汁酸

 コレステロールは、細胞膜の構成成分として、又、ステロイドホルモン(美容通信2010年9月号)やビタミンD(美容通信2013年3月号)の前駆物質として、無くてはならない大事な物質です。生体内に含まれるコレステロール量は、大人では約140gと言われ、その約1%が毎日代謝されており、その主な代謝産物が胆汁酸です。胆汁酸は、単にコレステロールの代謝産物ってだけではなくて、脂質の吸収を促進する作用を有しており、コレステロール代謝に重要な意義を持っています。

 腸内細菌は胆汁酸も代謝するので、胆汁酸は腸肝循環の間に種々の変換を受け、それがコレステロールを含めた脂質代謝に影響します。同時に、胆汁酸の構成の変化は、その界面活性作用から、腸内細菌の構成に影響を及ぼします。つまり、腸内細菌と胆汁酸は相互作用しながら、私達宿主の全身代謝に関与しています。

■分岐鎖アミノ酸(BCAA)

 必須アミノ酸である分岐鎖アミノ酸(BCAA)は、デブちん(肥満者)で値が高いだけでなく、BACC含有高脂肪食をマウスに食べさせると、インスリン感受性が低下する事が知られています。BCAA合成酵素を有する腸内細菌であるprevotella copriとBacteroides vulgatusの酵素活性が、デブちん(肥満者)では、と~っとも高値を示します。ここで、動物実験です。高脂肪食しか食べさせないマウスに、prevotella copriを投与すると、血清BCAAレベルが上がり、インスリン感受性や耐糖能にも影響が及んだんだそうです。

■多価不飽和脂肪酸

 食事由来の多価不飽和脂肪酸の腸内細菌代謝産物が、私達宿主にとって有益である事も分かって来ました。腸内細菌は、ω3系多価不飽和脂肪酸であるリノール酸(必須脂肪酸)(美容通信2007年4月号)をオレイン酸(1価不飽和脂肪酸)に代謝(美容通信2007年3月号)する過程で、様々な中間代謝産物を腸管内で産生します。この共役リノール酸CLAや水酸化脂肪酸(HYA等)やオキソ脂肪酸(KetoA等)には、私達宿主に対して、抗肥満作用、腸管バリア保護作用etc.があります。

 腸内細菌による不飽和脂肪酸の飽和化反応は、リノール酸以外の他の不飽和脂肪酸でも起こります。この際に腸内細菌から生合成される代謝産物の生体調節機能については、未だ完全に解明はされていませんが、私達宿主の恒常性維持に対し、重要な影響を及ぼすと推察されます。

 

腸内細菌代謝産物からのシグナルを受け取る為には、受容体が必要だ!

 短鎖脂肪酸は、酪酸によるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害作用を介したエピジェネティック作用の他に、G蛋白質共役型受容体(GPCRs)である脂肪酸受容体(GPR41、GPR43、GPR109a、Olfr78)を介した様々な分子メカニズムが明らかになって来ました。夫々の受容体によって、発現組織や短鎖脂肪酸に対するその親和性が異なり、生体生理機能も多種多様です。

 下図は、脂肪酸受容体の局在及びリガンド親和性(実験医学Vol.37 No.2(増刊)2019より)です。

  組織 リガンド G蛋白質
GPR40 膵β細胞、腸内分泌細胞等

リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)等の長鎖脂肪酸に対して高親和性

Gq
GPR120 白色脂肪細胞、腸内分泌細胞等 Gq
GPR41 交感神経節、腸内分泌細胞等 プロピオン酸>酪酸>酢酸 Gi/o
GPR43 白色脂肪組織、腸内分泌細胞等 酢酸=プロピオン酸>酪酸 Gi/o、Gq
GPR109a 腸管上皮細胞、免疫細胞等 酪酸 Gi/o
Olfr78 血管、腸内分泌細胞等 プロピオン酸>酢酸 Gs
  • 代謝機能
    • 消化管[腸管ホルモン]:酢酸、プロピオン酸、酪酸⇒GPR41、GPR43
    • 脂肪組織[インスリンシグナル]:酢酸⇒GPR43
    • 交感神経[ノルアドレナリン分泌]:プロピオン酸⇒GPR41
    • 膵臓β細胞[インスリン分泌]:酢酸⇒GPR41、GPR43
    • 迷走神経[腸管糖代謝]:酪酸、プロピオン酸⇒GPR41
    • 腎臓/血管[血圧]:プロピオン酸⇒GPR41、Olfr78
    • 脂肪組織[レプチン分泌]プロピオン酸⇒GPR41
  • 免疫機能
    • 骨髄[気管支炎、免疫細胞分化]:プロピオン酸⇒GPR41
    • 消化管[大腸制御性T細胞]:プロピオン酸⇒GPR43
    • 消化管[大腸炎、インフラマソーム制御]:酢酸⇒GPR43、GPR109a
    • 消化管[大腸炎、好中球遊走]:プロピオン酸⇒GPR43
    • 消化管[腸管上皮]:短鎖脂肪酸⇒GPR41、GPR43
  • 中枢神経機能
    • 脳機能[ミクログリアの成熟]:酢酸⇒GPR43
    • 肝臓[癌細胞増殖抑制]:プロピオン酸⇒GPR43
    • 大腸[癌形成抑制、大腸炎抑制]:酪酸⇒GPR109a
    • 大腸[癌形成抑制]:食物繊維、ビフィズス菌⇒GPR43

全身の恒常性の制御から考える、老化とは

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 腸内細菌叢は、加齢(爺婆化)に伴う、免疫老化や慢性炎症の影響を受けて変化します。この様な生理的変化は、当然、老化関連疾患、つまり、神経変性の病気や肥満、Ⅱ型糖尿病、アテローム性動脈硬化症等の老化に関連する病気と密接な関係があり、腸内細菌をターゲットにした食事療法やプロバイオティクス摂取(美容通信2013年8月号)(美容通信2019年11月号)、糞便微生物移植等の介入治療は有益と考えられています。


加齢の伴う腸内細菌叢の変化

 私達は同じ人間ではあっても、赤ちゃんと、ガキんちょ、大人、爺婆で、全く異なる様相の腸内細菌叢を呈しています。前述の通り、腸内細菌叢は国や居住地域等によって異なり、居住地域固有の特徴は、早期乳児期から明確に認められ、私達の発育や栄養状態、生理的な差異、西欧化等が腸内細菌叢に大きく影響します。しかし、居住エリアに関わらず、ビタミンの生合成や代謝に関連する遺伝子等の、腸内細菌叢の機能的成熟に関わる遺伝子群は、生後3年の間に著明な変化を遂げるようです。

 左下図は、「日本人の加齢に伴う腸内細菌叢の変化」で、文献からの引用です。

 生まれて間もない頃の腸内細菌叢は、どうやって生まれたか?(分娩様式)、お母さんの腸内細菌叢がどうだったか?が決定付けると言っても過言ではありません。

 離乳して、固形物や食べ物の種類が増えるのに伴い、急激に腸内細菌叢も変化します。生後3日から2歳までの変化が一番ドラマチックでな変貌を遂げる時期です。日本人の場合、個人差はありますが、Actinobacteriaが離乳後から緩やかに減少します。

 3~4歳でほぼ成人と同じ細菌叢に落ち着きます。細かく見れば、Baacteroidetesが減少し、Firmicutesの増加と多様性の顕著化が20歳位まで続きます。この変化は、腸内細菌叢の成熟過程と考えられており、その後は、成人の間は安定した腸内細菌叢を維持します。

 その後は、若い頃の様な腸内細菌叢の変動ポイントや境界は明らかに認められず、寧ろ、爺婆化に伴い、緩やかに腸内細菌環境は悪化します。しかし、高齢者の腸内細菌叢は、若い大人達(若齢成人)よりも個体差が大きく、個々のライフスタイル、栄養状態、身体の虚弱や体内の炎症状態等の要因で、大きく左右されるようです。

 因みに、これはマウスの実験での話ですが、高齢のマウスの腸内細菌叢は、肥満型の腸内細菌叢に類似しているんだそうです。

 

加齢関連疾患の改善の為に、腸内細菌を利用しよう!

 加齢関連疾患の原因となる慢性炎症を抑制する事が、病気の改善や予防に有効と考えられています。

 プロバイオティクス等の腸内細菌は、直接的に炎症応答反応を低下させ、適応免疫応答を改善し、それにより免疫老化を妨げるのではないかと考えられています。爺婆に対する介入試験に関する幾つかの報告によれば、プロバイオティクス及びプレバイオティクスの摂取で、ビフィズス菌の増加と同時に、Enterobacteria科の細菌の減少が認められたそうです。更に幾つかの研究によれば、プロバイオティクスは、炎症性のサイトカインの産生を減少させ、NK細胞や貪食細胞の活性を増加させ、インフルエンザワクチン接種に対する応答性を改善するそうです。

 最近では、食べ物やプロバイオティクスって経口からだけでなく、お尻から入れる!って糞便微生物移植なる方法も注目を浴びています。マウスの実験では、肥満の人の腸内細菌を移植されちゃった無菌マウスは、痩せた人の腸内細菌を移植された無菌マウスに比べて、体重が増加し、より多くの脂肪を蓄えてしまったそうです。人間に於いても、痩せ型の人からメタボリックシンドロームの患者さんに腸内細菌叢の移行をを行ったところ、6週後にはインスリン感受性の改善が認められ、酪酸産生細菌が増加したそうです。ところが、この様な素晴らしい結果を出せるのは、スーパー糞便ドナーと称される超優秀なうんこ提供者からのうんこに限るんです。彼らのうんこは、酪酸産生細菌の割合が高く、腸内の酪酸産生がデブ化に歯止め(抗肥満作用!)を掛けてくれるようです。が、普通の痩せ型の人のうんこでは…ダメなんです、はい。

 脳みそと腸は、自律神経系や液性因子(ホルモンやサイトカイン等)を介して、密な連携を取ってる相思相愛ずぶずぶ関係=「腸脳相関」。老化に於ける慢性炎症は、炎症性サイトカインや酸化ストレスの増悪、血液脳関門の破壊、末梢免疫細胞の浸潤、及びグリア細胞の活性化等を引き起こし、脳機能を著しく損なう可能性があります。実際、最近の報告によれば、パーキンソン病は65歳以上の1~2%を占める疾患とされていますが、腸内細菌や腸内細菌由来の代謝産物が、重要な危険因子だと考えられています。更に、アルツハイマー病(美容通信2019年4月号)の発症にも、腸内細菌は関与しているようです。アルツハイマー病は、老人斑及び神経原線維変化を特徴とする、記憶障害や精神症状、行動障害を呈する神経変性疾患です。腸内細菌は、多量のアミロイド&リポ多糖類を放出→炎症性サイトカインの産生↑→アルツハイマー病の発症に関与するシグナル伝達経路を調節!するそうです。その為、腸内細菌に特異的な介入治療、又は糞便微生物移植は、アミロイド生成を強力に抑制し、ひいては、認知症の発症予防/遅延になるのでは?と希望的憶測がなされておりますが、研究は半ば以前…って段階です。

 

腸内細菌で、寿命が延びる!?

 様々な寿命延長介入試験が行われています。

  • 腸内細菌の組成とカロリー制限による体重減少の関係

   デブ(肥満)だと、人間でもマウスでも関わらず、Firmicutes/Bacteroides比が高いもんなんですが、痩せる位のカロリー制限を課すと、比は低く抑えられます。又、生涯に亘って、低脂肪食しか食べさせてもらえなかったC57BL/6Jマウスちゃんでは、寿命とLactobacillus属に正の相関があり、寿命と負の相関を示す腸内細菌も幾つか存在したんだそうです。つまり、カロリー制限により、構造的にバランスの取れた腸内細菌叢が確立され、結果、私達の体が健やかに保たれるようです。

  • プロバイオティクス

   プロバイオティクスを摂ると、代謝及び心血管の健康状態が改善されるようです。介入治療で、LDLコレステロールの低下、LDL/HDLコレステロール比の改善、炎症性サイトカインや血糖値、血圧、体格指数の低下を齎したとの報告があります。線虫やマウスの研究でではありますが、寿命延長効果も多数報告されています。

腸内細菌叢や免疫系が、情動に及ぼす影響

 腸内細菌叢、免疫系、脳神経系の三者は、三つ巴。蜜な相互関係があります。脳機能の1つに情動制御がありますが、人間ではなかなか実験が難しく、ど~しても実験動物であるネズミさん達にもある基本情動となると、研究対象は不安と恐怖にならざる得ない…のですが(笑)。

 免疫系や腸内細菌叢による情動制御のメカニズムに於いて、サイトカインは重要な役割を果たしています。

免疫系→情動

 感染症や自己免疫疾患、神経変性疾患と言った多くの病気では、免疫系の活性化と共に心理変化が生じる事は良く知られています。脳みそは免疫特権領域で、通常は血液脳関門が関所しており、末梢の免疫細胞は侵入不可。つまり、脳内と脳外では全く異なる細胞達なので、免疫細胞と一括りにしてはいけません。

■脳内免疫細胞→情動

 脳みそには、ミクログリアや非実質マクロファージ等の免疫担当細胞があります。今の時点で、一番研究が進んでいるのがミクログリアですが、この細胞は、免疫細胞であるグリア細胞の一種で、脳全体に分布しており、炎症性のサイトカインの放出やニューロンとの相互作用、貪食と言った機能により、脳の異常を監視して、損傷の修復や異物排除を行っています。

 精神的ストレスは不安障害のリスクファクターとなり、その病態生理には神経炎症性のサイトカインが関与します。ミクログリアが、TNF-αやIL-1β等の炎症性サイトカインを産生して、直接ニューロンに働きかけて「不安を煽る!」のは昔から知られていましたが、最近、炎症性サイトカイン産生性の単球を内皮に誘導して、ストレス起因の「不安を煽る!」という別回路の存在も分かって来ました。つまり、直接的及び間接的に‼神経細胞に作用して、情動に影響を及ぼします。

 ミクログリアは恐怖反応にも影響していて、ミクログリア除去マウスや、ミクログリア特異的に脳由来神経栄養因子(BDNF)を欠失したマウスでは、恐怖記憶が障害されます。脳内で産生された炎症性サイトカインが、恐怖記憶形成過程に影響する事は周知の事実ではありますが、近年の研究により、この恐怖記憶の維持にも、ミクログリアから産生されるTNF-αが関与している事が明らかになりました。

 ミクログリアの他にも、肥満細胞が不安様行動を制御しているようですが、「どうやって?」ってメカニズムについては不明です。

■脳外免疫細胞→情動

 血液脳関門の破綻の否かに関わらず、末梢での免疫系の活性化も、ニューロンに作用して、情動の変化を引き起こします。

  • 血液脳関門の破綻を伴うメカニズム
    • 血液脳関門の破綻により、脳外の免疫細胞が神経実質内へ侵入してしまう。
    • 抗体等の液性因子が、神経実質内に漏れ出してしまう。

     ニューロンに反応性を持つ自己抗体により、情動変化が起こります。

  • 血液脳関門の破綻を伴わないメカニズム

  末梢免疫細胞は、活性化して炎症性サイトカインを産生して、不完全なバリア機能しかない血管が存在する脳室周囲器官や脈絡叢のマクロファージ様細胞に作用して、脳内のサイトカイン産生を促します。

 

腸内細菌叢→情動

■腸内細菌叢の無定着!→情動

 腸内細菌がいない状況(非存在下!)では、無感情ではないですが、マウスでは、不安様行動が抑制され、恐怖記憶の想起が低下するようです。何故、その様な情動の変化が起こっているのかは未だ解明されていませんが、腸内細菌はミクログリアの成熟や機能の制御に関与しているので、多分、ミクログリアを介してなんだろうなとは思うのですが…。

■腸内細菌の変化→情動

 腸内細菌叢のバランスによっても、情動変化が生じます。迷走神経、血液等の循環系、免疫系を介して情動変化を引き起こします。

 プロバイオティクスの投与により、炎症性細胞が抑制され、DASS(抗鬱不安ストレス尺度)が低下するそうです。

 ストレスに起因する不安様行動も、腸内細菌バランスの変化により影響を受け、ストレスマウスでは、うんこの腸内細菌叢が変化しており、大腸炎の併発と共に目立つようになります。フツーのマウスに、ストレスマウスのうんこを移植(糞便移植)すると、不安様行動を示すようになったそうです。更に追い打ちを掛ける様に、ストレスマウスのうんこで増えていたE. coliやE. coli由来リポ多糖を投与すると、ますます不安様行動は激しくなりました。ところが、プロバイオティクスとしてLactobacillusを投与すると、不安様行動が落ち着いたそうです。

 食餌性肥満に伴って認められる不安様行動についても、腸内細菌の影響が報告されており、メトロニダーゾールやバンコマイシン等の抗生物質を投与すると、脳内のインスリン抵抗性や炎症が抑えられるのと同時に、不安様行動も回復するんだそうです。

腸内細菌叢は、ガキんちょの中枢発達に大きく関与する。

 私達人間は、お魚さんやトカゲさん達と比べると、1匹とか2匹の、少ない匹数の赤ちゃんしか一度に出産しません。それどころか、生まれた子供も、生まれて直ぐに自立出来る訳ではなく、親(若しくはそれに類する人)がどっぷり面倒を見ないといけません。私達が、この未成熟で且つ可塑性の塊として生まれて来るのは、たまたまと言っては語弊がありますが、生まれ落ちた様々な環境により柔軟に適応する余地?可能性かな?が高いって事を意味します。つまり、個体としての生存確率を飛躍的に上げる=おたまじゃくしの卵の様な無駄撃ちは(単に、エネルギーの浪費なので)しない!って戦略です。親が子に伝えるものは、授乳等の栄養面に留まりません。周囲環境は、後天的な遺伝子発現修飾(エピジェネティクス)を変化させ、遺伝子発現さえも左右します。従来から、母子間の触れ合い(接触行動)が社会的要素として評価されていましたが、実は、母子間で伝達される腸内細菌叢や、周囲の仲間から影響を受ける細菌叢の存在も大きな役割を果たしている事が分かって来ました。細菌叢は、それ自身が中枢神経系に直接作用するだけでなく、内分泌や免疫分子を介して中枢に情報を伝達し、中枢発達に関与し、様々な機能を変化させると言う「脳腸相関」があります。

 

母親と子の関係を切り離す「離乳」から、神経内分泌変化を考える

 近年の研究により、早期離乳した子供達は、通常離乳した子供達に比べて、人見知りで、我関せず(探索動作の低下)の傾向があり、低体重児って報告があります。因みに、早期離乳マウスやラットで観察される行動や中枢変化は下記の通り。

  • 情動・自律神経反応テスト

   高架式十字迷路:不安↑、ホールボードテスト:不安↑、自律神経応答:緊張↑、強制水泳テスト:鬱傾向↑

  • 社会行動

   母性行動:↓、性行動:↓、制限給餌攻撃:↑、仲間に対する攻撃:↑、遊び行動:↓

  • ストレス内分泌応答

   グルココルチコイド基礎値:↑、ストレス後グルココルチコイド値:↑、海馬グルココルチコイド受容体:↓

  • 中枢発達

   脳重量:↓、ミエリン形成:早期化、海馬BDNF発現:↓、海馬神経新生:↓

 

 この様な個体の発達にマイナスの影響を及ぼす因子として、副腎皮質から放出されるグルココルチコイドが挙げられます。マウス実験ではありますが、通常通りの離乳群では、1時間もすれば基準値に回復するのに対し、早期離乳させた子供のマウスでは、グルココルチコイド分泌が48時間以上非常に高値を示し続けるそうです。この過剰分泌されたグルココルチコイドが、前頭葉の神経細胞に作用し、脳由来神経栄養因子(BDNF)のプロモーターⅢ部位(P3)特異的に発現を抑制します。つまり、前頭葉の機能不全により、激しい不安行動や、恐怖記憶を何時までも覚えている(恐怖記憶の消去抵抗性)ようになったんですね。

 

神経内分泌軸の発達と腸内細菌叢

 子供の神経内分泌の発達が、母子間に依存する事は以前から知られていましたが、その鍵を握るのが腸内細菌叢です。お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんは、無菌状態です。母子間或いは発達期の環境から体内に取り込まれた菌が定着する(美容通信2019年11月号)事で、ストレス内分泌応答が規定されます。その為、前述の早期離乳マウスでは、一生涯に亘って高いストレス内分泌応答が観察されると考えられており、実際、早期離乳マウスのうんこを無菌マウスに移植すると、鬱様行動が高まる等の行動変化が認められるそうです。早期離乳マウスと通常マウスの細菌叢を比較すると、その構成比は明らかに異なり、特にLachnospiraceae科の細菌に著明にその傾向が認められたそうです。このLachnospiraceae科の細菌は、マウスではストレス負荷で高発現し、私達人間でも潰瘍性大腸炎やクローン病の患者さんで多く検出される菌として知られています。

 ちっちゃな子供の頃に母親(若しくはそれに類する人!)との間を引き離されると、グルココルチコイドの過剰分泌が起こり、腸内細菌叢が変化します。それにより、体内の機能、特に中枢神経系に作用して、不安や鬱様行動を引き起こすものと考えられます。勿論、グルココルチコイド受容体は、脳みそだけでなく、様々な臓器に於いても発現しているものなので、末梢での代謝や免疫系にも何らかの悪影響を及ぼしているでしょうし、またこれが腸内細菌叢に悪影響を及ぼし…と、正に悪循環の極み、かも?

 右図は、AFPBB Newsから拝借した、のお写真です。早期離乳によるグルココルチコイドの高活性化は、腸内細菌叢の変化を齎し、長期的な影響の一因となります。高グルココルチコイドの影響が全身性に及び、ストレス反応が亢進し、情動反応が高まります。動物の場合には、生産性が低下する等の、様々な悪影響が起こります。

 

腸内細菌叢とオキシトシン

 腸内細菌叢は、中枢発達に於いて、マイナスを改善する効果も知られています。

 dysbiosisとは、宿主の体調の変化等の何らかの切欠で、腸内細菌の総数が著しく減少したり、フツーな環境ではあんまお目に掛かれないレアな菌種がめりめり増える等の、細菌構成の崩壊状態を指します。このdysbiosisは、親の代だけの話ではなく、そのまま次の世代である子にdysbiosisを垂直伝播し、この成長に影響を与えます。例えば、dysbiosisを起こしている母親に、Lactobacillus reuteriを飲ませると、母親だけでなく、dysbiosisを起こしていた子の腸内環境が整い、社会性の低下が回復したんだそうです。Lactobacillus reuteriが、中枢のオキシトシンを活性化した為と考えられています。オキシトシンは、脳の視床下部で産生されるペプチドホルモンで、従来は出産や射乳等のお母さんホルモンと考えられていましたが、不安の低下や鬱様の行動の減少、ストレス内分泌応答の減弱、社会性を高め、共感性や慰め行動等にも関与している事が近年の研究により明らかにされてきました。迷走神経が、その伝達回路ではないかと推測されています。

 前述の母子分離による細菌叢のdysbiosisが、Lactobacillus等の投与により改善する可能性が示唆されています。…育児放棄したライオンのお母さんにLactobacillus reuteriを飲ませて、dysbiosisを回避出来ていれば、赤ちゃんライオンのパリスは、乳母のオールド・イングリッシュ・シープドッグのカルメンの世話になる事がなかったかも知れません。パリスの未来の子供達の為にも、カルメンのおっぱいにLactobacillus等が含まれている事を祈りましょう!

 

離乳後の発達と腸内細菌叢

 母子間で伝達される腸内細菌叢は、前述の通り中枢発達に非常に重要な役割を果たしますが、何らかの原因でこれが遮断されてしまった場合でも、挽回するチャンスはあります。未だそのメカニズムは完全には解明はされてはいませんが、外部からの細菌叢の投与です。

 


*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

 

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