体内時計とアンチエイジング | 旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信美容通信2019年10月号

体内時計とアンチエイジング

2017年のノーベル生理学医学賞は、体内時計研究に対してでした。時計遺伝子が発見され、生体リズム(概日リズム)の乱れが、高血圧や糖尿病、癌、老化、認知症等との関りがどんどんと解明されつつあります。老化は、果たして可逆性なのか?  

 先日、自宅マンションの近所で開催された、抗加齢内分泌研究会の「メラトニン」の講習会を受講してきました。講師の東京女子医大の名誉教授 大塚邦明先生のお言葉を、先ずは誌面で引用抜粋します。

  • 90歳を過ぎたあなた。もう青春時代の楽しかったあの頃は戻ってこない!と、諦めていませんか?
  • 宇宙に出て無重力状態に長く身を晒すと、宇宙飛行士には、一見、高齢者の様な変化が表れて来ます。筋肉は痩せ細り、脚は鳥のように細くなります。視力は低下して、物がぼんやりとしか見えなくなります。耳が遠くなります。しばしば眩暈を感じます。
宇宙では。筋肉は寝たきりの人の2倍の速さで弱くなり、骨は骨粗鬆症の10倍の速さで弱くなる。
  • しかし、この老化に似た現象は、地上に帰還後、リハビリを重ねて行くと消え去り、45日で殆ど元の若さに若返ります。

 …老化は、可逆的である可能性についても、検討する価値が十分にあるって事ですね。と言う訳で、今月号は<体内時計とアンチエイジング>です。

先ずは、あまりにもざっくりな体内時計総論(笑)

体内時計が乱れると、何が困るのだろうか?

 時計遺伝子が発見され、生体リズムの乱れと高血圧や糖尿病、癌、老化、認知症等との関りが次第に明らかになって来ました。あまりにも嬉しくないこれ等の症状達について、実際、様々な論文が出ています。

  • 飲酒量が増える(Spanagel R, Nature Med, 2005)
  • 高血圧・糖尿病になる(Turek, Science, 2005)
  • 骨が脆くなる(Fu L et al., Cell, 2005)
  • 癌になりやすい(Lee CC, Cancer Causes Control, 2006)
  • 老化が進む(Viswambharan H et al., Circulation, 2007: Wang C-Y et al., Circulation, 2008)
  • 短命(Fu L et al., Cell, 2002)

 体内時計は、自律神経・内分泌系・骨代謝を統括していますから、これに差し障りが生じると、様々なトラブルに繋がるのです。

 下図は、参考までに、時計機構のコアグループを示したものです。

 核内受容体のRev-erbsとRORsは、時計制御に関連する時計機構の一員です。しかし、その働きはそれだけに止まらず、脂質・リポ蛋白代謝、脂肪産生、血管の炎症の調節に関与したり、エネルギーの産生やホメオスタシスの維持に大事な核受容器とクロストークもしています。つまり、Rev-erbsとRORsは、代謝のプロセスと時計機構の出力との相互協調作用の中心的な存在なんです。

 

DNA損傷を繕う体内時計について

 お昼間に全身に降り注ぐ紫外線は、細胞の遺伝子を攻撃し、DNAを損傷させます。どれ位の損傷頻度かと申しますと、私達の体の中には約40兆個の細胞がありますが、1細胞あたり1日50万回ってとんでもない回数の損傷なんです。(因みに、私達人間の細胞は、毎日1兆個の細胞が入れ替わり、1ヶ月で30兆個、2ヶ月で60兆個が新らしい細胞に生まれ変わっているので、とんでもないと言えばとんでもないけれどのレベルなんですが(笑)。)しかし、DNAは傷付いても、時計遺伝子に見守られた細胞周期が機能し、自動的に修復されるので、健康で、体内時計が正常でさえあれば、癌を心配する必要なんて殆どありません。

 ところが、体内時計が壊れると、DNA障害のチェックポイント(T)が上手く働かず、癌が発症します。

 

体内時計と連動して代謝を調節し、加齢と老化を抑制する「長寿遺伝子」Sirt1

 SirtuinファミリーはDNA+依存性脱アセチル化酵素で、酵母やショウジョウバエ等の下等動物に於いて、Sirt2が寿命制御に重要な役割を果たしています。哺乳類では7つのSirtuin(Sirt1~7)があり、p53、FOXO3、PGC-1、LXR等の転写因子を脱アセチル化し、アポトーシス、ストレス応答、糖・脂質代謝ホメオスタシス等の多くの細胞機能に関与し、その活性異常が糖尿病や心血管系疾患等の多くの老化関連疾患を引き起こしています。

 概日時計遺伝子を改変したマウスを用いた研究によれば、例えば、Clock/clock変異マウスでは糖・脂質代謝異常を呈し、肥満になります。又、Bmal/1KOマウスでは、寿命短縮に加え、筋肉が萎縮し、白内障や皮下脂肪の減少、臓器萎縮等の早老現象が起こります。それだけでなく、Clock/clock変異マウスとBmal/1KOマウスは、低インスリン血症及び糖尿病で、更には、Cryによるインスリン感受性亢進が明らかになって来ました。この様な概日時計による代謝調節への関与が明らかにされつつある一方で、代謝障害が概日時計に与える影響についても示唆されています。高脂肪食を与え続けられたマウスでは、概日行動周期が延長し、更におデブマウスでは、時計遺伝子の発現リズムが減弱してしまうってデータもあります。

 ちょっとばかし、復習から。NAD+は、生物の主な酸化還元反応の多くに於いて必須成分(補酵素)であり、好気呼吸(酸化的リン酸化)の中心的な役割(美容通信2017年4月号)を担っています。解糖系およびクエン酸回路より、糖あるいは脂肪酸の酸化によって、還元物質NADHが得られます。

 NAD+の合成には、アミノ酸であるトリプトファンから作られるde novo経路と、ニコチンアミド或いはニコチン酸を利用する経路の3つがありますが、私達の様な高等動物では、主に細胞内のNAD+は、ニコチンアミドからの再利用経路によって供給されています。この再利用経路に関与する酵素のうち、律速酵素(註:律速酵素とは、複数の化学反応が連続して起こる、ある一連の化学反応系に於いて、その全体の反応速度を決定する要因になる最も進行の遅い反応(律速段階)を触媒する酵素。どのような代謝経路であっても、その経路全体の反応速度を決定するのは律速酵素が関わる反応(律速段階)の速度です。用語的には、高校や大学等で、授業でグループに与えられた課題等を解決する過程に於いて、悉く足を引っ張るA君に対し、「お前は律速段階だからな」とか「目良(めら)ノーマだからな」と非難する時に使いました…)であるNampt遺伝子の発現にブレーキを掛けるのが、概日時計です。つまり、概日時計が細胞内NAD+量を調節しています。しかし、この概日時計とNAD+再利用経路は一方通行ではなく、細胞内のNAD+量はSirt1活性を抑制して、時計遺伝子の発現も調節する。つまり、Sirt1を介した相互制御(クロストーク)の関係が成り立っており、これにより様々な代謝を制御し、生体の恒常性・ロバスト性を維持し、老化及び老化関連疾患に抗しているとも言えます。

 後述する心血管系疾患を始めとする代謝性疾患と、概日時計の関連を示す報告は急増しており、また、全遺伝子のうち、少なくとも10%の遺伝子発現に24時間周期の発現を示す事が報告されています。代謝に関する酵素も多く、概日時計が代謝機能を担っている事が次第に明らかになっています。また、Sirt1のみならず、他のSirtuinファミリーが協調的に働く事で老化制御に関与している。つまり、規則正しい生活リズムがSirtuinの活性バランスを正常に保つ(戻す)のに、どうやら重要な役割を果たしているようです。これが解明されると、今まで根拠なく感じていた事、つまり、不規則な食生活や生活リズムの所為で、何故老化が進んだり、老化関連疾患が発症するのかはっきり因果関係を示せるようになり、手の打ちようも見えてくるでしょう。

 

 

体内時計を正しく働かせる為の技

   腸は神経組織の集合で、脳内と同じ神経伝達物質が30種類も存在する第二の脳(←本当はご本家(美容通信2012年8月号)なんですが…まあ)です。ですから、腸が健康でないと不眠になります。実際、腹時計!なんて言葉もあるくらい(笑)で、お腹を壊すと寝不足になるのは皆様も実感する通りです。また、睡眠不足や不眠は、腸内フローラの代謝障害を招き、生体リズムを狂わせ、生活習慣病や発癌、認知障害へと繋がります。

  • 入浴の効用(美容通信2015年2月号
  • 上手にマッサージを施す
  • 寝る前の安心感を作る
  • 体に合った枕やベッド、寝間着

睡眠-覚醒リズム

睡眠-覚醒リズム

 年を取るにつれ、徐々に睡眠-覚醒のリズムは乱れて来ます。睡眠は脳の恒常性維持にと~っても重要な働きを担っていますから、これは一大事! 認知症(美容通信2019年4月号)の発症・促進因子にもなりかねません。

 睡眠-覚醒リズムは、睡眠を促す神経制御と、これに反して、覚醒を促す制御の、相反する2つの制御(Two-Process Model)系によって成り立っています。前者の睡眠を促す要因としては、「起きている時間が長くなると、眠くなる」。覚醒促進制御の限界点を超えてしまうと、寝落ちする。まあ、生体の恒常性の維持には、この、遂に、とうとう、寝落ちしてしまうって現象は非常に重要な過程で、睡眠負債(Sleep-wake homeostasis)を反映したメカニズムなので、Process Sと呼ばれています。因みに、日中の労作度や睡眠不足の蓄積により、睡眠負債量は増加しますが、例えば、一晩徹夜した場合、睡眠負債の解消には、2日分の睡眠時間は必要ありません。睡眠長だけでなく、睡眠深度によっても調整されるから、そんなに長い時間を寝てカバーする必要がないからです。

 私達人間は、お仕事や学校、若しくは全く勝手な!!自己都合で、日照リズムや時刻情報等を完全に無視して、好き勝手な睡眠-覚醒パーターン生活をさせても、それなりに周期的な睡眠-覚醒パターンで生活するものだって事が分かっています。例えば、普通に健康人を真っ暗な洞窟の中に閉じ込めて放置プレイすると、最初の1、2週間は、24時間周期の睡眠-覚醒パターンを継続しますが、徐々に間延びして、毎日の覚醒時間が、1時間ほど、規則正しく遅れて行くんだそうです。

 これは、私達の睡眠-覚醒リズムが、体外環境とは全く関係なしに、約24時間の体内時計(美容通信2017年1月号)に従うように既にプログラミングされちゃっているから。体内時計の中枢は、視床下部の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus:SCN)って名前の神経核にあります。視交叉上核では、時計遺伝子と呼ばれる一連の遺伝子群が、自らの転写産物が自身の転写を制御する…HISAKOの様に自分だけに甘いんじゃなくて、自分にも厳しい!自己制御のフィードバック体制がキッチリ出来ちゃっているんです。このフィードバック周期が、約24時間の転写周期を形成しています。体内時計は、主に覚醒促進制御に関わっていて、私達人間では朝方に上昇し、夜に低下する周期的な変動を示します。

 でも、厳密な事を言えば、体内時計の周期はきっかり24時間ではなくて、0.2~1時間位の誤差があるんです。位相の補正をしないとダメなんです。視交叉上核は、視神経が交差する視交叉の上部に位置し、網膜に投射された光情報を直接受け取っています。この光情報が、視交叉上核内の一部の時計遺伝子の転写を誘導し、これにより時計遺伝子の転写リズム位相が微調整され、体内時計が実生活のリズムに合わせて補正されます。この誤差補正システムのお陰で、私達は、季節ごとの昼夜の長さの差(日長差)や時差を伴う海外旅行(ジェットラグ症候群)等々の社会環境にも、対応出来るんですよね。体内時計によってコントロールされる覚醒促進制御機構は、概日(Circadian)制御メカニズムなので、Process Cとも呼ばれます。

 

概日制御メカニズムの加齢性変化

 睡眠-覚醒リズムは、Process SとProcess Cの勢力の鬩ぎ合い! 特にProcess Cの機能は、爺婆化により、恐ろしく減弱する事が知られています。明るいお天道様の下で活動する昼行性の私達は、日中に覚醒度が上がり、活動量が増加します。反対に、夜間は覚醒度が下がり、寝てしまいます。この一見、意識的な活動に見えるこのリズムは、実は、体内時計に支配された生理現象の側面が、と~っても強いんですね。

 朝目覚めて活動が始まる前から、体内時計の指令により、ストレスホルモンの一種であるコルチゾールの分泌が増加します。いきなり眠っていた体に動け!と命令しても、寝ぼけたままだと当然動けませんから、動けるようにウォーミングアップする必要があるからです。体内の様々な臓器に存在する末梢型体内時計は、微妙に時間がズレているものなのですが、このコルチゾールのシグナルを受け、時計の針が皆同じ時間に揃います(=体内時計の位相の同調)。つまり、目が醒めた直後から、臓器達がスムーズに協調して働ける状況になるんですね。副腎がストレスなどの影響で、この根回し役のコルチゾールをきちんと分泌出来なくなって、様々なトラブルを来たしたのが、副腎疲労(美容通信2015年4月号)(美容通信2017年5月号)って病気です。爺婆化しても、コルチゾールの分泌量は減ってしまいます。

 深部体温は、私達の生理活動に於ける概日リズム制御を明確に反映するマーカーであり、入眠直前に最高温となり、明け方にかけて最低になる日内変動を示します。この変動の総司令塔は、松果体から分泌されるメラトニン(美容通信2017年1月号)(美容通信2015年8月号)ですが、このメラトニンの分泌のタイミングを制御するのも、又、視床下部の視交叉上核です。

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 爺婆になると、深部体温変動の変動の振幅が20~40%程度減少するだけでなく、メラトニンの分泌量も低下します。様々な概日変動を示す他のホルモン達も、爺婆化に伴い分泌量が低下します。加齢と共に、睡眠-覚醒リズムに於ける昼夜のメリハリがなくなって、平坦化してしまう理由です。

 私達の視床下部の視交叉上核の容量は、80歳まではほぼ同量ですが、81歳以上になると、61~80歳の群と比較して40%以上!もメキメキ減少し、更には認知症(美容通信2019年4月号)患者さんでは60%も減ってしまうと言う報告もあります。

 視床下部の視交叉上核は、網膜からの直接神経入力を受け、外界の明暗情報!を視交叉上核内外の細胞達に中継する役割を担っています。中でも、VIP(vasoactive intestinal polypeptide)が、その中心的な活動拠点と考えられています。ところが、爺婆化と共に、視交叉上核のVIP産生細胞の数はどんどん減少し、認知症の患者さんに至っては、更に著しく!減少するようです。加齢により低下するのは、量だけではなく質も低下します。視交叉上核からの出力だけでなく、光に対する体内時計調節能力も低下します。

 

加齢による恒常性の維持機能と睡眠-覚醒のパターン変化

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 年を取ると、睡眠時間は短くなります。ガキんちょの頃は平均9時間以上寝ていたのに、70歳を過ぎると、その平均睡眠時間は6時間を下回ります。特に、脳皮質活動が強く抑制される徐派睡眠量は、年を取る程に著しく減少します。

 寝る(睡眠中枢)か起きるか(覚醒中枢)を決めるのは、どちらの勢力が勝っているかの力関係で決まります。

 睡眠中枢は、視索前野にあるGABAニューロン群により構成され、覚醒中枢は脳幹の結節乳頭核を中心としたモノアミン系ニューロン群を中心に構成されています。この睡眠中枢に関わる視索前野の細胞数は、爺婆化に伴いメキメキ減少します。Process Sに関わるアデノシン等の睡眠物質は、睡眠中枢を刺激して、猛然と眠気を誘います。プロスタグランジン等も睡眠物質ですが、これ等は日中の、特に有酸素運動で増加します。爺婆になると、あんまり体を動かさなくなるので、どうしてもストックが乏しくなります。

 睡眠-覚醒リズムのバランスを整える調整役として、最近注目を浴びているのが、オレキシンニューロンって神経組織です。オレキシンは覚醒中枢に喝!を入れて、叩き起こすのがお仕事です。年を取るとオレキシンニューロンの数は減少し、アルツハイマー型認知症の患者さんでは更にもっともっと激減しているそうです。アルツハイマーの患者さんでは、覚醒中枢機能に関わるアセチルコリンニューロン数の減少も加わって、正にWパンチ! 著しく覚醒系機能の低下に陥り、恍惚の人にならざる得ない…。

 爺婆は、睡眠-覚醒リズムの位相が前倒しに進みやすく、早寝早起きのHISAKO型になりやすいとされています。恐らくは、年を取って睡眠時間が短くなる等のProcess S主導の、まあ、一種の老化現象なんでしょう。

 つまり、爺婆の睡眠が浅く、昼夜関係なくダラダラ引き摺ってしまうのは、睡眠中枢と覚醒中枢の両者の機能低下によって、リズムが不安定化しまうからなんですね。

 

脳機能にとって、と~っても重要な睡眠

 睡眠は、身体的な疲労回復の為だけではなく、中枢神経の可塑性を含めた脳機能の回復にも関与しています。中でも、記憶の定着・強化に睡眠は不可欠であり、認知症を発症したくなければ、兎に角、せめて、寝る!だけは死守って事ですかね。

 脳細胞から出た産業廃棄物化したアミロイドβは凝集し、脳内に沈殿し、アミロイド班として認識されます。アミロイドβは、マウスの実験ではありますが、起きている昼間には脳間質液の濃度は上がっていても、寝ている間にす~っと下がるそうです。睡眠の中でも特に徐派睡眠の時間帯は、作業がサクサク進む時間帯とされています。私達人間でも、アルツハイマー病に特徴的とされる楔前部皮質でのアミロイドβ蓄積は、寝不足で増える事は知られていますし、徐派睡眠の減少により、間接的ではありますが、記憶定着率は低下するとの報告もあります。つまり、アルツハイマー型認知症の予防には、適切な睡眠は大事って事です。

 

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の有効性と限界

 睡眠薬には、睡眠中枢が放出するγアミノ酪酸(GABA)と、なんちゃってのベンゾジアゼピン(BZD)系があり、これ等が主流派となっています。ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、GABAではありませんが、GABA受容体に作用し、神経細胞の脱分極・発火を抑制する事で、眠くするものです。ところが、このGABA受容体は脳内に広範囲に分布しているので、眠気だけでなく、筋弛緩、脱抑制、集中困難等のいらないとこまで抑制しちゃうのが欠点。それどころか、最近になって、ベンゾジアゼピン系のお薬を飲まないと寝られん!と連続使用していると、どうも認知症が発症しやすくなるらしいぞって事も分かって来ました。90日以上の連続使用でアルツハイマー型認知症の発症との関連性が認められ、180日以上の連続使用では発症のリスクは2倍になるとの報告があります。

 ベンゾジアゼピン系を含む多くの睡眠薬は、睡眠時間の延長を目的として処方されています。しかし、睡眠時間が短過ぎるのもですが、長過ぎるのも曲者で、20年後の認知機能低下と関連するとの報告もあり、必ずしも伸ばせば良いってものじゃない。何事も”程々”が肝要です。ですから、爺婆の不眠に対しては、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬から、GABA受容体以外に作用点がある睡眠薬!って流れになってきているようです。

 

生理的制御を利用した睡眠-覚醒リズム治療

 年を取ると、外出するのが本当に億劫になります。家の中で幾ら動いてるつもりでも、そんなもん多寡が知れていますから、Process S、Process Cの両方共に低空飛行状態となり、睡眠-覚醒リズムは乱れざる得ません。非薬物療法の王道ですが、少しでも、「お昼間、お天道様の下で動き回る!」様に心掛ける事で、睡眠薬を減らせれば、若しくは飲まなくても平気!になってくれれば、それに越した事ありません。有酸素運動は、年と共に擦り減ってしまう徐派睡眠量を増加させてくれるので、基礎代謝が上がり、体温の最高点&睡眠負荷もUPし、ど~んと深い眠りを誘います。

 爺婆なると、視床下部の視交叉上核の位相調節を仕切る光に対し、機敏な反応が出来なくなってしまいます。若ければ、それだけで、一日中引きこもりの様に室内に閉じ籠っていても、昼間は昼間と認識します。室内照明の照度は、紫外線と比して、視交叉上核に対する作用は遥かに弱いにもかかわらず、です。若さとは、凄いものです。しかし、そんな若者も、年を取れば光感受性が低下し、夕方の室内照明くらいではもう認識がおぼつかず、どんどん睡眠位相が前倒しになっていきます。その為、最近では、中国の人口月「照明衛星」ではありませんが、「夕方に人工高照度光に曝して、位相前進を阻止しよう」なんて案も本気で検討されているようです。

 我が国では、2010年に、メラトニン受容体作動薬であるラメルテオン(商品名:ロゼレム)(美容通信2017年1月号)が、睡眠薬として発売されました。メラトニンは、ご存知寝るホルモン。最近になって、それだけではない、正しくはそれ以上に、その多彩な効果、つまり、強力な抗酸化作用、骨代謝や中枢神経系に対する作用、抗腫瘍作用等の様々な生理作用等に注目が集まっていますが、メラトニンを語る時には、寝るホルモンとしての話は省略不可。メラトニンは、睡眠-覚醒リズム調節に於いて、視交叉上核の位相調節が主な作用点なので、ベンゾジアゼピン系のお薬の様に、認知機能や運動機能に悪さをする事は殆どありません。せん妄は、睡眠-覚醒リズム制御不全で酷くなりますから、せん妄を悪くしちゃうベンゾジアゼピン系のお薬よりも、遥かに爺婆向きなんですね。

 また、2016年には、オレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサント(商品名:ベルソムラ)が発売されました。ベルソムラは、覚醒促進神経ペプチドのオレキシンAとオレキシンBが、オレキシン1受容体及びオレキシン2受容体に結合するのを阻害します。睡眠を促すのではなく、覚醒状態を抑制するお薬です。ですから、GABAに影響を及ぼし、習慣性と依存性が懸念される為に、短期的な使用が推奨されるベンゾジアゼピン系のお薬と違い、ベルソムラは長期的に使用が可とされています。爺婆になると、オレキシン神経系の機能不全も出て来るので、機能補助的な使い方でぐっと不眠治療に幅が出る!お薬ですね。

  睡眠-覚醒リズムの不安定化 睡眠の分断/浅睡眠の増加
体内での仕組み 体内時計 睡眠-覚醒のシーソー
加齢による機能変化 昼夜の減少 睡眠の質的低下・不安定化
加齢による生理変化

視交叉上核細胞の減少

発火リズム振幅の低下

オレキシン等の神経伝達物質の減少

日中活動量減少による睡眠物質の不足

覚醒中枢・睡眠中枢神経細胞の減少

非薬物療法

光環境の調節

人工高照度光の利用

日中活動量の増強による

睡眠物質の増加

薬物療法 メラトニン作動薬 オレキシン拮抗薬

体内時計中枢も老化し、機能低下する。

 生まれて間もない赤ん坊時代は、睡眠-覚醒リズムも覚束ないが、徐々に母性行動や光等の外的因子に同調したリズムが形成されるようになります。大人になれば、生理的睡眠-覚醒リズムは安定し、ホルモン分泌等は、顕著な概日リズムを示すようになります。しかし、年を取ると、次第に朝が早くなり、それどころか途中で目が醒めてしまうなんて睡眠障害がぼちぼち出始め、それに伴いホルモン分泌リズムの振幅低下等も起こって来ます。

 何でこんな悲しい事態に陥ってしまうのかと申しますと、全身の概日リズムを司っている体内時計の総司令塔である視床下部の視交叉核(suprachiasmaic nucleus)の機能が落ちてしまうからです。

体内時計の総司令塔である、視床下部の視交叉上核

 視交叉上核と言われても、ピンと来る人もあまりいないかとは思います。右図を見て下さい。視神経の交差点である視交叉の直上正中部分に、第Ⅲ脳室を挟んで左右一対で存在します。マウスでは芥子粒程度の大きさしかないのですが、その中には、片方だけで約1万個の神経細胞が、単なる過密状態ではなくて!、と~っても厳格なルールに従って緊密に構築されています。網膜らの直接的な神経伝達経路があり、環境の明暗サイクルに同調します。

 2017年ノーベル賞の「概日リズムの分子機構の発見」を皮切りに、時計遺伝子の発見ラッシュが到来。今では、視交叉上核の細胞1つ1つに細胞時計というシステムが存在している事も明らかになりました。時計遺伝子群は、転写・翻訳フィードバックループを形成し、約24時間のリズムを刻む細胞時計を形成します。1個の細胞でも、勿論リズムは刻んではいますが、お互いに連携を取る事で同調し、視交叉上核は神経核としての明確なリズムを生み出す事が可能になります。つまり。視交叉上核って大本営の発令に従って、夫々の臓器に備わっている体内時計が、全体としての生理的な調和としてのリズムを刻めるんです。

 総司令部がガタガタに崩壊すると、夫々が好き勝手な時間を刻み始め、全身としての細胞時計は破綻します。

 

大本営の視交叉上核が機能低下するから、概日リズムも狂って来る

 面白い事に、年を取っても、視交叉上核の細胞内での時計遺伝子の発現リズム自体は殆ど変りません。まあ、正しく表現すれば、

遺伝子発現のリズムも、年を取ればそれなりに低下をしているんですが、お天道様がそれ補完してくれているので、遜色ないリズムが刻めるのです。

 冬があり 夏があり
 昼と夜があり
 晴れた日と
 雨の日があって
 ひとつの花が
 咲くように

 悲しみも苦しみもあって
 私が私になってゆく  (詩:星野富弘)

 しかし、個々の細胞のリズムが好き勝手にバラバラに足並みが乱れて来るので、これにより、全体としての視交叉上核全体の活動性が低下する(=神経発火活動リズムの振幅の低下)のです。個々の細胞時計への影響というよりは、その細胞同期が上手く行かない。端的に表現すれば、電波時計の、「発信基地から出力される電波が弱くなった」ってところでしょうか。年寄りの自己中と同じで、協調性がなくなると言うか…余力がなくなって、人の事なんか考えてられない!って感じです。

 アルツハイマー病を代表する神経変性疾患に於けるリズム障害の一番の原因も、視交叉上核の機能不全と考えられています。

交感神経による免疫応答の日内制御

 交感神経は、自律神経系の構成要因として、副交感神経と共に色々な私達の臓器の働きを制御しています。この交感神経の活動性には概日リズムが認められ、1日のうちで一番身体の活動性が上がる時間帯に上昇する!って特徴があります。つまり、私達人間は一番動き回るお昼間の時間帯がピークですが、夜行性のネズミさん達は夜間がピークになります。この交感神経の活動性の概日リズムは、血圧や心拍数と言った循環器系のパラメーターに反映される事は広く知られていますが、免疫系にも又多大なる影響を及ぼしています。特に、免疫細胞の体内動態は、交感神経の活動性に見事なまでに相関する日内変動を示し、免疫応答の強度をも左右します。

 

交感神経は、好中球をどう制御しているのか?

 免疫系の、他の臓器との最大の違いは、構成細胞である免疫細胞達が、絶えず体の中を動き回っているという点につきます。これにより、全身レベルでの感染防御が成り立っているのですが、この免疫細胞達の体内動態にも日内変動がある事が、最近の研究により明らかになって来ました。

 免疫には、①自然免疫(病原体を、直接的に成敗する!)と、②適応免疫(抗体や感染細胞への攻撃を介して、病原体を間接的にやっつける)があります。自然免疫を担う好中球や単球達は、全員が全員ではないんですが、血管内から拠点を組織内に移し、組織への病原体の侵入に備えます。

 例えば、マウスの好中球は、交感神経の活動性が高まる夜間になると、血管内から皮膚や筋肉等の組織に民族の大移動を行います。夜行性のマウスの場合は、概日リズムの中枢である視交叉上核からの命令により、夜間に交感神経の活動性が高まり、より多くのノルアドレナリンが分泌される為と考えられています。血管内皮細胞に発現するβ2及びβ3アドレナリン受容体を介して、ケモカインCCL2、接着因子ICAM-1の発現が上昇し、血液から組織に向かってずずずっと、好中球は移動します。

 しかしながら、上記の反応は平常時のお話であって、出会い頭の冬眠前の羆に出くわしたり、ノルアドレナリンをブスっと注射した時等は、血液中の好中球の数はば~ん!っと一気に上昇します。まあ、非常時は、全く正反対の体内動態を示しますから、きっと違うメカニズムなんだろうなとは思いますが、詳細は今もって不明です。

 

リンパ球をどう制御しているのか?

 適応免疫を担う、謂わばお巡りさんであるリンパ球が、末梢組織から紛れ込んで来た極悪人(病原体)を認識し、免疫反応を引き起こす場が、リンパ節です。警察署の様なところをイメージすると分かり易いかと思います。リンパ球はリンパ節から出動し、リンパ液と血液の合流点から血流に乗って、再びリンパ節に戻るまで、全身を隈なくお巡りさんしています。

 このリンパ節を拠点とするリンパ球の体内動態も、交感神経によって制御されています。しかし、前述の好中球の日内変動がcell-extrinsicなメカニズム(操り人形!)で起こっているのに対し、リンパ球は細胞内に内在する(cell-intrinsicな)メカニズム、まあ、自発的機序とでも言いますか、これによりコントロールされています。交感神経からのノルアドレナリン入力を、リンパ球のβ2アドレナリン受容体がキャッチすると、リンパ球はリンパ節からの脱出を思い留まります。つまり、リンパ球が、リンパ節から離脱するか、それとも残留するかを最終的に決定付けるのは、離脱を促すスフィンゴシン1リン酸受容体(sphingosine-1-phosphate receptor-1:S1PR1)のシグナルと、残留を強く推すケモカイン受容体CCR7とCXCR4のシグナルの、力関係で決まります。β2アドレナリン受容体の活性化は、CCR7とCXCR4の反応性を選択的に増強する為、リンパ球は脱出を思い留まるんですね。

 マウスでは、交感神経の活動性が高まる夜間に、昼間に比べ、お散歩に出掛けずに、リンパ節で待機するリンパ球の数がぐ~んと増加します。このリンパ節に於ける日内変動は、β2アドレナリン受容体を介する交感神経からの入力を、人為的に切断する事で消失します。つまり、交感神経によるリンパ球の体内動態のコントロールシステムが、リンパ節での免疫応答の日内変動の形成に一役買ってるって事なんですね。

 

時計遺伝子による免疫細胞動態の制御

 免疫細胞に内在する時計遺伝子も、免疫細胞の動態を制御します。しかし、時計遺伝子によって操られているケモカインCCR2遺伝子の発現が、単球の日内変動を仕切っているぞ!って事までは分かっていますが、骨髄球系細胞のどの細胞集団が関与しているのかも、これ等の骨髄球系細胞が何処に存在しているのかも、未だ良く分かっていません。

 

免疫細胞動態の日内変動の意義

 免疫細胞の体内動態には、日内変動があります。1日のうちで交感神経の活動性が高まる時間帯に、好中球や単球は血液から皮膚等の末梢組織に移動し、リンパ球はリンパ節に集結します。これは実に合目的な行動で、私達人間はお昼間だし、夜行性のうちのにゃんは夜中というように、身体の活動性が高まる時間帯は、イコール病原体にも遭遇し易い時間帯でもあります。(因みにエゾリスの活動時間は早朝!) この様な魔の時間帯には、病原

体の侵入門戸となる末梢組織に、敵をやっつける兵士達(自然免疫担当細胞)を大勢配属し、同時にリンパ節には、リンパ球達を集結させてより強力な適応免疫応答に備えると言うのが、実に理に叶った防衛戦略です。自然免疫と適応免疫がタグを組んだ最強の防衛コンビの実現には、免疫細胞が日内変動するって事が、生理的に必要不可欠なんですね。


 免疫細胞の体内動態だけでなく、免疫細胞の機能にも日内変動が認められます。例えば、細菌やウィルス由来のDNAを認識するToll様受容体9(Toll-like receptor 9:TLR9)がマクロファージ上に現れる時間帯も、時計遺伝子の支配下にあって、概日リズムを刻んでいます。その他にも、マウスでは、T細胞抗原受容体のシグナル伝達分子であるZAP70の発現量が日内変動するのとリンクして、T細胞の反応が夜間に亢進します。つまり、1日のうちで1番感染のリスクが高まる時間帯には、効率良く免疫応答が遂行出来るように、万全の備えをしているんですね。

 さあ、応用問題です。インフルエンザのワクチン接種を何時受けるのがお得だと思いますか? しっかり、HISAKOの美容通信を読んだ皆さんはもうお分かりだと思いますが、交感神経の活動が高まる午前中に予防接種を受けた方が、夕方に受けるよりも遥かに抗体価の上昇が認められます。まあ、豆知識と言えば、豆なお話ではありますが(笑)。

 

交感神経による免疫抑制機構の加齢変化

 爺婆化すると免疫機能は低下するので、高齢者では感染症が重篤化し易かったり、ワクチン不全等の嬉しくない事象が発生します。

 何故、爺婆と言うだけで、こんな不条理の状況が発生してしまうのでしょうか?

 リンパ器官に投影する交感神経細胞の数は、組織的な解析から既に明らかになっています。数が減れば、どうしたってリンパ節への交感神経の入力が低下しないはずもなく、リンパ節にリンパ球を留め置く阻止力ってものが減弱します。そうすると、職場(リンパ節)で腰を据えて、じっくりと抗原を探し出すだけの時間を確保出来なくなり、適応免疫応答って業務自体が疎かになってしまいます。同時に、由々しき事に、リンパ球動態の日内変動の振幅も小さくなり、自然免疫と適応免疫のスムーズな連携に支障を来たし、効率的な免疫応答が阻害されるからです。

グルココルチコイド

 グルココルチコイド(糖質コルチコイド)は、副腎皮質から作られるステロイドホルモンの一種です。強力な抗炎症作用と免疫抑制効果を有し、アレルギー疾患や自己免疫疾患の治療には欠かせないホルモン(美容通信2017年5月号です。グルココルチコイドは、肝臓や脂肪組織に働いて血糖値を上昇させたり、脳に働いて覚醒状態や記憶力をUPします。また、ストレスに反応して分泌が増える為、ストレスホルモンとも呼ばれ、生体防御機能の側面もあります。


概日リズムとグルココルチコイド

 グルココルチコイドは、副腎皮質ホルモンの一種であり、アルドステロン(鉱質コルチコイド)と共に生体にとって重要な働きをしています。グルココルチコイドの分泌は、概日リズムとストレスによって調節されていますが、いづれについても、視床下部室傍核からの副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone:CRH)の分泌→下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone:ACTH)の分泌→副腎皮質に作用して、グルココルチコイドの産生が促進されます。グルココルチコイドは、視床下部に働いて、CRHやACTHの分泌を抑制し、ブレーキを掛ける負のフィードバック(視床下部-下垂体-副腎皮質系)も担っています。

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 グルココルチコイドの濃度は、概日リズムの影響で日内変動(美容通信2015年4月号を示し、私達人間では早朝にピークになり、昼間から夜間にかけて低値になります。因みに、夜行性のマウスでは、このサイクルが逆転して、夜間に高値を示します。

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 私達人間ではコルチゾール、マウスではコルチコステロンが、主なグルココルチコイドです。グルココルチコイドの作用は多岐に渡り、筋肉では蛋白質の分解を促進して、アミノ酸を遊離。脂肪組織では、脂肪を分解して、脂肪酸とグリセロールを放出。肝臓では糖新生を促進して、全体として血糖値を上昇させます。更には、中枢神経系にも作用し、記憶や覚醒状態等を抑制します。

 グルココルチコイドは、細胞質内に存在するグルココルチコイド受容体(glucocorticoid receptor:GR)と結合する事で、二量化して核内に移行し、グルココルチコイド応答配列(glucocorticoid response element:GRE)に結合して、標的遺伝子の発現を抑制します。このGRは、直接DNAと結合するだけでなく、他の転写因子とも結合し、その機能を調節したりもします。

 

免疫系に対する作用

 免疫系に対する作用としては、強力な抗炎症作用と免疫抑制効果が挙げられ、アレルギーや自己免疫疾患のお薬として治療に用いられています。

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 グルココルチコイドの抗炎症作用については、ホスホリパーゼA2(美容通信2016年7月号)を抑えて、プロスタグランジンやロイコトルエンの産生に待った!を掛けるだけでなく、炎症時には、マクロファージに対して抑制的に働いて、IL-1βやTNF-α等の炎症性サイトカインの産生を低下させます。非炎症時の生理的な、まあ、まだ良く分かってはいないんですが…。

■グルココルチコイドによる日内変動の調節

 概日リズムは、様々なメカニズムを介して免疫機能をコントロールしています。前章で述べたように、交感神経の活動は、リンパ球のCCR7やCXCR4等のケモカイン受容体の機能を高めて、リンパ節に留まる様に仕向け、結果として免疫応答能をUPします。これが第1のシステムです。第2のシステムは、時計遺伝子であるBMAL1が、リンパ球のCCR7やリンパ節からの離脱に関与するS1PR1の発現の、日内変動をコントロールをしています。これにより、リンパ球の体内分布を効率良く采配出来るようになり、免疫応答能がUPします。そして、第3のコントロールシステムが、グルココルチコイドによるT細胞の再循環と免疫応答能の日内変動の制御です。

 IL-7Rαは、T細胞の分化と応答に非常に重要な役割を果たしており、T細胞でIL-7Rの発現が上昇すると、増殖や生存に極めて有利になると考えられています。グルココルチコイドは、細胞内に存在するグルココルチコイド受容体のCNS-1領域に結合する事で、このIL-7Rα遺伝子の発現を誘導します。つまり、グルココルチコイドの生理的な日内変動は、IL-7Rを介して、身体の活動性が高まる時間帯はリンパ節に集結し、活動性が弱まる時間帯は末梢血に出て行くという、T細胞の再循環をコントロールしています。

 また、夜行性のネズミさんを使った動物実験でも、身体の活動性が高まる時間帯(ネズミさんは夜!)では、リンパ節に於けるT細胞性の反応が高くなり、活動性が弱まる時間帯(ネズミさんではお昼間!)には、逆に低くなるという日内変動を示し、グルココルチコイドが免疫応答能の日内変動もコントロールしている事が明らかになりました。

概日リズムと循環器疾患

 概日リズムは、約24時間周期で変動する生理現象です。私達人間では、総司令塔たる時計機能は脳内の視交叉上核に存在しますが、下々にもその機能は存在し、中枢からの液性因子や神経因子によって子分である分子時計は時間を刻んでいます。これを親時計、子時計と称する人もいます。私達人間では、数十兆の大部分の細胞(生殖器以外!)で、体内時計が回っています。

 下の図を見て下さい。

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 概日リズムは、時計遺伝子と呼ばれる一連の分子がその制御に関わっていて、特に四天王と称される遺伝子はClockBmalPeriodCryの4人です。転写因子であるCLOKとBMAL1は二量体を形成して、PeriodCryの発現をプラスに調整するのに対し、これ等の時計遺伝子から生成される蛋白質が、今度はCLOKBMAL1の転写活性にブレーキを掛けるてくるという、隣組的な!コアループを形成しています。

 元々は、概日リズムは、環境に適応する為の極めて合目的なシステムではありますが、その匙加減が様々な理由から狂ってしまうと、それが故の疾患の発症なんて由々しき事態が引き起こされてしまいます。例えば、虚血性心疾患や不整脈等の循環器系の病気は、早朝に発症する事が多いとされています。①レニン・アンジオテンシン系や交感神経系活性が早朝に亢進する事、②血小板凝固能の亢進と線溶系活性の低下が午前中に起こる事等が、その理由と考えられています。また、夜勤している人に虚血性心疾患が多い!って統計が既に出ていますが、概日リズムの攪乱による、血圧日内変動の変化や、交感神経活性亢進、糖・脂質代謝異常等が原因と考えられています。循環器系のクリニックの待合室が爺婆で溢れかえっているのも、前述の通り、加齢に伴い、概日リズムの振幅が低下し、位相が前進、周期が短縮するだけでなく、明暗サイクルに対しても順応性が低下してしまうのが原因の一つと考えられています。

 加齢により時計遺伝子の概日リズムが狂うだけでなく、時計遺伝子の異常は細胞レベルでの老化(細胞老化)を早めてしまいます。この鍵因子となっているのが、生理活性物質の一つである一酸化窒素(NO)です。血管内皮細胞由来のNOは、平滑筋をだら~んと弛緩させるので、動脈はリラックスして拡張し、血流量が増加して血圧が下がります。ところが老化した血管内皮細胞では、ロクにNOを産生出来ないし、eNOS活性も低下するので、血管系の恒常性の維持に問題が生じます。

 

心筋梗塞の発症に見られる概日リズム

 心拍の揺らぎには、行動に左右されない内因性のリズムがあります。つまり、私達人間の心拍変動フラクタル性に、午前10時付近に大きくなる内因性概日リズムが存在します。実験的にラットの視交叉上核を破壊してみると、そのスケーリング指数は増加します。


 

*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。