老人の足のむくみとリンパ管の老化 | 旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2019年8月号

老人の足のむくみとリンパ管の老化

最近の研究で、様々な臓器でリンパ管の存在が確認され始め、これを機に、緑内障やアルツハイマー病等の発症に、リンパ管の老化が関与している事が次第に明らかになって来ました。それ以外にも、加齢に伴う病的な足の(甲の)むくみ(老年性浮腫)やシワの形成にも関与しています。加齢を起点に、要介護状態に至るまでには、リンパ管の機能低下を介して、様々な段階が連鎖的に起こります。将来的には、リンパ管のアンチエイジング治療は、健康寿命の延伸を叶えてくれる決定打的な治療法へと大化けするかも知れません。

 リンパ系の歴史は、ヒポクラテスに始まります。BC5世紀、彼はその著作『関節について』中で、リンパ節について言及していますが、「リンパ液が、肝臓と心臓によって産生されるのでなく、体内を循環する」と言う、今では小学生でも誰でも知っている事実が判明するのには、1628年のウィリアム・ハーベイの研究を待たなければなりませんでした。1652年、スウェーデン人オラウス・ルドベックは、肝臓に、清明な(且つ白色でない)液を含んだ透明な管を発見しました。冒頭の肖像画の、知的で自信満々って感じのおじ様です。かれは、これを肝臓水管(hepatico-aqueous vessels)と名付けました。彼はまた、この管が胸管に繋がっており、弁を有している事に気付きました。彼はこの発見をスウェーデン女王クリスチーナの宮廷で発表はしましたが、何故か1年間出版しなかったんだそうです。しかしながら、ルドベックがぼさ~っと手を拱いている間に、トーマス・バートリン類似の発見をし、二番煎じにも関わらず、とっととそれを出版してしまったんですね(笑)。彼は、その管を「リンパ管」と名付け、肝臓だけに限らず、体のあらゆるところに存在するとも言及しました。…ラドベックがバートリンを盗作の罪で告訴したのは、リンパ系業界では有名なお話です。

 加齢とリンパ管の関係については、まだまだ分からない事だらけですが、HISAKOの医学生時代に遡れば、ラドベックの時代の五十歩百歩。老化に関係はあるかもって漠然とした認識上の存在でしかありませんでしたから、ホットトピックスとしてリンパ管が取り上げられている今日この頃、今昔の感ひとしお!といったところでしょうか。まだまだ、アンチエイジングに於ける有用な武器とはなり得ませんが、ボケボケしていると、ラドベックみたいに出遅れるぞ!(笑)って訳で、<リンパ管から老化を考える>です。

最近注目のトピックス!

超高齢化社会とリンパ管の機能低下

 厚生労働省による2013年の調査では、[介護を受けずに自立した生活を送れる期間を示す健康寿命]と[平均寿命]の差、つまり要介護期間は、男性で約9年、女性で約12年だそうです。なるべくなら、健康寿命が飛躍的に延びて、平均寿命に追いついてくれるの

が望ましい私達の老後です。楽しい事は、なるべく長い期間楽しみたいのが人の常で、逆は嫌ですよね。

 要介護状態への強力な片道切符と称されるものには、認知症の発症と緑内障による失明が挙げられますが、これ等の病気の発症にリンパ管の機能低下が大きく関与しています。それだけでなく、よりハッピーな老後って意味でも、加齢に伴う病的なむくみ(老年性浮腫)やシワの形成と言った”見た目”にも、リンパ管の老化は関わっています。老化とリンパ管の関係に俄然注目が集まっているのが、昨今のアンチエイジング業界の動向なんですね。

■様々な臓器で、リンパ管が発見されつつある

 血管は赤い血液が流れているので、同定は結構容易ですが、リンパ管は…殆ど無色透明のリンパ液が流れているので、そのまんまの状態では検出が難しい! なので、1990年代の後半になるまで、良く分からないだけの存在どころか、存在すらしない臓器もゴロゴロあるって考えられてました。Alitaloらのグループにより、血管内皮増殖因子受容体3(VEGFR3)がリンパ管内皮細胞のマーカーだった!って事が報告されてから、わさわさと、LYVE-1やPodoplanin、Prox1等のリンパ管マーカーが同定されるようになったのです。しかし、この様な免疫組織学的な手法では検出にも限界があり、一時は頭打ち感が否めなかったのですが、ここで急展開。2011年、Prox1遺伝子プロモーターにより、緑色蛍光蛋白質(GFP)を発現する遺伝子改変マウスが開発されました。これで簡便にリンパ管の検出が可能になり、HISAKOが、大昔、大学で習った解剖学の講義を大幅に修正せざる得ないような大発見!が幾つも見つかったのです。

リンパ管の老化が、緑内障の原因?

 緑内障は、日本に於ける失明原因のNo.1であり、40歳以上の日本人の緑内障罹患率は5%で、年齢を重ねる毎にその割合は増加します。

 眼球の中を満たす房水は、シュレム管を通って外に排出されますが、この排水管が詰まれば、当然眼球内圧は上昇し、緑内障が発症します。シュレム管内皮細胞はProx1を発現しており、従来考えられて来たような静脈の一部なんかではなく、どうも準リンパ管として扱った方が良さそうだぞ!って事が分かりました。更には、老化マウスに於いて、シュレム管の内皮細胞が内皮間葉移行(EndMT)を起こす事で硬化しており、これが緑内障の発症に関与している事が分かっています。

リンパ管の老化が、アルツハイマー病の原因?

 アルツハイマー病(美容通信2019年4月号)を始めとする、認知症の最大のリスクは加齢です。アミロイドβやタウ等の凝集性の高い蛋白質の異常蓄積が知られていますが、これ等の認知症関連蛋白質は、当たり前ですが、地層の如くに徐々に徐々に堆積を重ねた単純な累積ではありません。常に産生・分解されており、通常は一定のレベルが保たれているものですが、老化により脳みそからのクリアランス速度が低下すると、異常蓄積に傾いてしまいます。このクリアランスに関わるメカニズムとして、最近注目を浴びているのがリンパ管です。

 昔は、「脳を含む中枢神経系には、リンパ系は存在しない!」と解剖学の教科書には記載され、HISAKOもそう習ったのですが、実は脳みそにも老廃物のクリアランス等のリンパ系の機能が備わっています。2015年、KipnisとAlitaloらのグループが、Prox1-GFPレポーターマウス等を用いて、リンパ管が脳の髄膜に存在し、脳脊髄液から髄液と免疫細胞の両方を輸送出来ることを報告し、この中枢神経系のリンパ管の機能不全が、アルツハイマー病にも関連しているのでは

ないかと考えられるようになりました。

リンパ管は、生理的にも老化する。

リンパの働き

 血漿容量やアルブミン量を維持する機構としての重要な役割を担っているだけでなく、肝臓で産生されたアルブミンやアルブミンに吸着されるステロイドホルモン等の輸送、小腸から吸収した長鎖脂肪酸、脂溶性ビタミン等の移動路、炎症反応時の各種活性物質の移送や癌細胞の転移路等、血管系と並列に存在する輸送路としての機能を持っています。

■循環器系

  • 余剰な組織液の回収路
  • アルブミンの再吸収路

   アルブミンは、様々なホルモン等の生理活性物質や老廃物を吸着する、ハエ取り紙?コロコロクリーナーの紙?みたいな存在ですが、分子量が、兎に角、デカいん(分子量約66000)です。ですから、組織間隙に漏れ出してしまうと、蜂蜜を食べ過ぎたくまのプ~さんのおケツが穴に閊えて出られなくなったのと同じで、直接血管系に戻る事が出来ません。”リンパ管”って名前のデブ専用の迂回経路を通って、血管系に戻るしかありません。リンパ管が、ホルモン等の生理活性物質や老廃物の輸送経路と称される所以でもあります。

 リンパ管の輸送機構には、①受動輸送と、②能動輸送があります。①の受動輸送は、脚の静脈の還流に似ています。筋肉運動をすれば、弁機能により一方向にしかリンパ液を流すしか能のないリンパ管は、否が応にも、周囲の筋肉の動きに従って(=受動的に)リンパ液を上へ上へと戻すしかありません。②の能動輸送としては、リンパ管の自発収縮能が知られています。平滑筋のない毛細リンパ管に自発的な収縮は無理ですが、集合リンパ管レベルだと、周囲に平滑筋が認められるようになり、リンパ液の能動輸送は可能になります。この能力に突出しているのが、反芻動物である牛や羊の腸間膜リンパ管ですが、私達人間はそれ程ではないにしろ、腸間膜や膝の裏側の集合リンパ管では能動輸送が確認出来ます。

■免疫系

  • リンパ節に於けるリンパ球の休眠と動員
  • 腸管関連リンパ組織(GALT)の存在

 リンパ液が流れる大きなメリットとしては、免疫賦活作用があります。

■腫瘍(転移etc.)

  • リンパ節への転移路
  • 転移巣の腫瘍細胞に対する免疫応答

  メキメキと突貫工事で拡張を画策する癌の原発巣の周囲では、組織液量も増え、それが所属リンパ節にも大量に流入します。この流れ刺激は、内皮細胞表面の接着分子の遺伝子発現を変化させ、癌細胞都の接着能を亢進させてしまうんだそうです。リンパ節への転移巣の形成は、癌細胞自体の生物学的な特徴だけではなく、この様なリンパ節側の変性も関与しています。

■消化器系

  • 長鎖脂肪酸の吸収路
  • 腸管免疫応答の最前線

   腸のリンパは、食物の吸収経路であると同時に、常に食物由来の抗原に曝されて(美容通信2012年9月号)いて、腸管の免疫応答(美容通信2014年1月号)(美容通信2016年9月号)の最前線に位置します。腸管には、腸管関連のリンパ組織(gut-associated lymphoid tissue:GALT)が存在し、腸のリンパはGALT由来のリンパ球の通り道にもなります。最近では、腸内フローラ(美容通信2018年8月号)との密接な関係が注目されています。

 

加齢によるリンパ機能の変化

 加齢変化による細胞外基質や平滑筋の減少が、リンパ管の収縮周期や収縮期のリンパ流速、ポンプ機能の低下に関与しています。また、リンパ管機能を司る大きな要因であるNOの機能、これを制御するヒスタミンも、リンパ流量の低下に関係があるようです。爺婆の便秘や下痢と言った下々の不調も、腸管のリンパ管機能の低下により惹起された腸管壁の浮腫が原因で、腸管運動が抑制された為に起こる事もあるみたいです。…まあ、腸管のリンパが滞りなく流れてくれるだけで、体の不調は随分と軽くなるかも、なんですね。

 私達人間のリンパ管では、自発収縮能が明らかに認められる部位は限られ、下肢では膝裏の集合リンパ管くらい。同じ下肢でも、それ以外は静脈と同じで、筋ポンプ作用が主体。だから、爺婆では、筋力の低下がそのまま浮腫に繋がります。

 消化・吸収能に関しては、年を取ると、絨毛が短くなり、小腸からの吸収は悪くなるお年寄りもいる事はいるけれど、皆んなが皆んな短くなる訳ではありません。が、脂肪の吸収にと~っても大事な胆汁酸については、寄る年波には抗えず、脂肪の吸収低下がそのまま、免疫機能低下に直結します。長鎖脂肪酸は腸のリンパに吸収されると、腸のGALTより、免疫機能を制御するサイトカインの分泌が促されます。腸管免疫能と密接な関係があるようです。

リンパ管は、生理的だけではなく、構造的(解剖学的)にも老化する。

老化がリンパ管に及ぼす影響

■集合リンパ管の機能形態変化

 私達の集合リンパ管は、血管に比べて、独自の血管網(vasa vasorum:脈管を栄養する血管)と神経網(nervi vasorum:脈管の機能を調節する神経)が極めて良く発達しています。リンパ管内皮直下に縦走する平滑筋と共に、毛細血管網と神経網が密に分布するこの解剖学的な特徴は、老化の影響を受けやすく、リンパ輸送能の低下によるリンパのうっ滞、それに連鎖する弁の機能不全によるリンパの逆流等を引き起こし、末梢組織の浮腫、デトックス障害、炎症、更には免疫不全を引き起こします。

 先ずは、血管系から考えるリンパ管の老化について。血管は、他人を養うイメージが強いですが、他人だけではなく、自分自身を先ずは養えないと、存在が維持出来ませんよね(笑)。血管には、その外膜を養う血管ってものが存在しますが、中膜、内膜と移行するにつれ、その数は減少し、内膜に至っては、血管もリンパ管も存在しません。じゃあ、どうして生き延びているのかと申しますと、内腔を流れる血液、若しくは外膜側から滲み込んでくる、謂わばお零れと言うか…ピンハネした酸素や栄養で生き長らえています。ところが、リンパ液の中には、そこまでの豊富な栄養や酸素が含まれてはいないので、リンパ管は全て他力本願で生きる=独自の発達した血管網に頼らざる得ません。医学教育の父とされるウィリアム・オスラー曰く、「ヒトは血管と共に老いる」。血管だって老いる訳ですから、それに頼って生きてくしか術のないリンパ管も、当然老いざる得ない…。

 神経系にも、勿論、老化は悪影響を及ぼします。老化により、リンパ管内皮細胞のSOD(superoxide dismutase)(美容通信2017年10月号)活性や細胞内過酸化物(美容通信2018年7月号)、更には、ミトコンドリア(美容通信2017年7月号)内活性酸素も増大します。つまり、老化による集合リンパ管の構造・機能障害には、酸化ストレス(美容通信2017年4月号)(美容通信2016年11月号)の関与も忘れてはいけません。何故こんな話になるのかと申しますと、血管が中膜から内膜には神経が存在しないのに対し、集合リンパ管の内膜と中膜には神経網が発達しています。これは、前述の栄養供給のシステムと併せまして、リンパ管特有の構造的な問題なのですが、神経系は活性酸素に非常に脆弱な組織ですから、被害も甚大になりやすく、集合リンパ管の機能異常に直結します。

 更には、老化により、集合リンパ管壁の平滑筋だけでなく、コラーゲンを含む細胞外マトリックス蛋白も減少するので、これによりリンパ管の収縮頻度と収縮力、リンパ流の速度、推進力の低下が起こります。これらは、リンパの輸送を妨げる由々しき事態であり、リンパ管内皮の透過性が上がり、リンパ管からの細菌等の悪い奴ら(病原物質)の漏洩をも招きかねません。

■毛細リンパ管と老化

 血管と同様に、中枢の集合リンパ管の機能不全は、末梢の毛細リンパ管の構造と機能に直接的に影響し、その結果リンパ流に異常を来たし、毛細リンパ管の内皮チャンネルの不全化→リンパうっ滞(浮腫)へと繋がります。過剰な組織液の貯留は、組織の線維化や炎症を促進し、酸化ストレスを含めて、細胞・組織の形態と機能を傷害しますから、加速度的に転落するしかありません。


 しかしながら、この点がと~っても大事な未来へ繋がるお話なんですが、怪我等で障害されると、そこの組織は浮腫んだり線維化を来たしたりします。老化と同じ現象が起こるんです。しかし、傷が癒え、リンパ管がちょっとでも再生し始めると、浮腫みがす~っと引けて来ますし、あれだけ勢い良く仲間を増やす事に精を出してた線維組織も勢いが鈍り、メキメキ安定化し始めます。これは、リンパ管の機能障害は片道切符なんかではなく、再び蘇るって可能性を秘めてるって事を意味します。また、癌のリンパ節転移に関連してですが、爺婆になってもと言うか…爺婆に多い癌ですが、老化した=線維化した組織でも、リンパ管がメキメキ新生するんですよね。更には、リンパ管が脳みその髄膜のひとつである硬膜に分布している事が判明し、俄かに、アルツハイマー病(美容通信2019年4月号)等の神経変性疾患の発症や治療応用として注目を浴びまくっている、本当に今一番ホットなアンチエイジング分野でもあります。

老化すれば、リンパ管も静脈も弁機能不全になる。

リンパ管の加齢性変化

 リンパ管は2弁性の弁構造で、これが一方向性、節状に収縮する事で、リンパ液を先っぽから体の中心に向かって流します。皮膚を軽く擦る程度でも、容易にリンパ液は流れるものですが、その際、弁のところで一度溜めてから、リンパ管内の平滑筋の収縮作用で、中枢側に押し出します。この地道な作業を数cm毎に繰り返し、それによりリンパ液は還流されます。

 リンパ管の弁に於ける機能低下には、①子宮癌や乳癌等の手術の際行われるリンパ節の郭清等により、リンパ流の閉塞或いは閉塞が起こる場合と、②加齢変化によるものがあります。ところが、リンパ管が加齢により弁機能を損なうと、弁が半開きの状態になり、幾らリンパ管が収縮運動しても、流れが一方向ではなく、支離滅裂?右往左往?自由奔放?好き勝手?(To and Flow現象)となり、図らずもリンパ液のうっ滞を来たしてしまいます。更に、加齢により、リンパ管壁自体にも肥厚が認められるようになり、高度な硬化を呈するものでは、動脈硬化の血管と同様に、リンパ管も、内・中・外の3層、平滑筋細胞に変性が起こり、内腔が狭窄します。動脈硬化とリンパ浮腫の増悪の間には、相関関係が認められています。Kimuraらの報告によれば、血管系の病気の際に用いられるシロスタゾールは、抗血小板作用や血管拡張作用が有名ですが、動物実験レベルでは、リンパ管内皮細胞の増殖と安定を促すんだそうです。って事はですよ、加齢に伴うリンパ管-静脈の変性にも効くかも?なんですね。

 最近の報告では、この様な弁機能を含めたリンパ管変性は、単なる肥厚閉塞に留まらず、炎症や免疫異常の引き金にもなるようです。

 静脈還流とは異なり、リンパ液の流れは、自立していると言うか…リンパ管自体の機能でほぼ決まり、外野(周囲の筋肉運動や血管拍動・収縮)の影響を殆ど受けません。ですから、老人性のリンパ浮腫については、爺婆化に伴うリンパ管の変性、浮腫の進行具合によっては、早期からの適切な圧迫や手術等によりリンパ液のうっ滞を改善する事は重要と思われます。

静脈弁の加齢性変化

 静脈弁も老化します。つまり、動脈硬化同様の硬化と壁肥厚が生じるので、静脈塞栓症のリスクとなります。論文によれば、年齢と共に静脈弁の肥厚は増悪し、0.004mm/年で進行し、20~30歳では0.35mmに過ぎないものが、71~80歳では0.59mmにまで達します。まあ、年を取ったからと言って、それがダイレクトに機能低下に直結はしないものの、弁が分厚くなった分だけ、機能は落ちます。

 静脈塞栓症の発症は、40歳未満で1/10000人に対し、75歳以上で1/100人。爺婆になるに従って頻度がメキメキUPし、下肢浮腫の大きな原因となります。実は、下肢浮腫は、リンパ浮腫によるものだけではないんです。

リンパ管の機能が低下すれば、シワになる。

光老化部位で起こっている事

 光老化(美容通信2003年7月号)(美容通信2003年8月号)した皮膚では、リンパ管の密度が恐ろしく減っており、どうも、リンパ管の機能が光老化、シワの形成に関係があるらしいぞ!って事は、昔から囁かれておりました。

 実験的に、光老化の原因とされる紫外線B波(波長290~320nm)を単回照射して、免疫染色すると、著しく拡張したリンパ管が認められたそうです。しかし、拡張したリンパ管は、無数の穴の開いた袋(水切りネット?)みたいなもの。折角本業としての回収機能を発揮して掻き集めたところで、穴からぼたぼたと外に漏れ出してしまえば、一向に皮膚の浮腫は改善せず、真皮内に留まるCD68陽性のマクロファージの量は増える一方。当然、炎症は遷延します。マクロファージは、マトリックス分解酵素を豊富に含み、真皮のコラーゲンやエラスチン(美容通信2004年4月号)の分解を促進し、”その挙句に、シワになる!”と考えられています。

 

皮膚炎症に関与するリンパ管をコントロールする遺伝子

■VEGF-C/VEGFR-3

 VEGF(vascular endothelial growth factor)-Cは、リンパ管に特異的な受容体であるVEGFR-3を介して、リンパ管内皮細胞の増殖、遊走、管腔形成を促進する遺伝子です。紫外線に対して、皮膚の炎症を緩和する働きが認められています。

■VEGF-A

 VEGF-Aは、皮膚では、定常状態では殆ど発現していませんが、紫外線を浴びると、表皮に発現します。VEGF-Aによって誘導されたリンパ管は、拡張、弁機能に異常がある、謂わば出来損ない。リンパ液の回収作業に差し障る、病的なリンパ管です。

■angiopoietin-1/Tie2

 皮膚のリンパ管の機能には、ang1がと~っても重要で、炎症によるリンパ管の漏出性亢進に対して、防御的に働いてくれます。

 

リンパ管の機能に着目した、資生堂らしい薬剤の開発

 リンパ管の機能は、皮膚の老化や炎症のプロセスに重要な役割を果たしています。様々な因子が関与しますが、中でも紫外線によるVEGF-Cの発現低下は、リンパ管の機能に重大な悪影響を及ぼします。

 MACC(N-methyl-trans-4-aminomrthylcyclo hexanecarboxamide hydrochloride)は、濃度依存的にVEGF-Cの発現を促進してくれる薬剤です。未だ、製品としては世の中に出回るレベルにまでは完成はされてはおりませんが、何れマツキヨ辺りでお目に掛かれるようになるやもしれません。

年寄りの浮腫み

フツーの、つまり取り立てて何かの病気がある訳でもない、爺ちゃん婆ちゃんの脚の浮腫み

■何で、取り立てて病気がある訳でもないのに、爺婆の脚は浮腫むのか?

 臨床的には、然したる病的な原因がないにもかかわらず、脚の浮腫みに悩まされる老人は多いものです。悲しい事に、脚が浮腫む=組織間液量の増加があっても、私達には、それを察知して排除に働くって調節機能がありません。毛細血管壁を隔てた、スターリングの力(仮説)で単に支配されているだけです。因みに、スターリングの仮説とは、”毛細血管壁と組織液との間が、水の出入に関して平衡状態にある時、毛細血管内圧と組織圧との差は、血漿の浸透圧と組織液の浸透圧との差に等しくなる”って奴です。自分の意志でどうにかなるって話じゃなくて、人任せ。乾燥ひじきや干しシイタケを水に浸して戻すのと、原理は同じです。これは、「仮説」なんかではなくて、もはや「法則」でしかないとは思うんですが…、『スターリングの心臓法則』とごっちゃになっちゃうと困るので、医学分野では『スターリング仮説』と呼ぶのがお約束。尤も、生理学や薬学等の分野では、スターリングの法則と言えば、仮説を意味するんですけどね。

 爺婆化するとあんま歩かないもんだし、歩いても、よたよたペンギン歩きでは、静脈のポンプ機能もロクに働かない。その上、皮膚の張りも弱くなるので、皮下組織圧も低下し、いよいよ浮腫液が静脈やリンパ液管に流れ難くなり、滞ります。爺婆の皮膚では、概して膠原線維の水分含有量は低下し、太さが増加します。弾性線維も変性し、弾力性や修復性が低下するだけでなく、組織圧を高める作用のあるヒアルロン酸も減少します。この様な顛末で起こってしまったのが、老人性浮腫(廃用性浮腫)です。勿論、高血圧等による心不全や腎機能低下、低栄養による低蛋白性浮腫も、更に浮腫に拍車を掛けたりします。
 特に車椅子での移動が主になると、足を動かさず、しかも足が地面についていないので、ポンプ機能は殆ど休眠?冬眠?状態のままとなり、静脈やリンパ系の働きが低下→浮腫が酷くなります。これが、有名なarm chair legs(arm chair edema)です。肥満や慢性的な関節炎、呼吸障害、神経的な異常等も、増悪因子として挙げられます。
 70歳以上で、明らかな内臓疾患を有さず、四肢の浮腫が進行性であるものが、これに相当します。重症化すると、水疱が出来たり、皮膚が分厚くなって…ゾウさんの足(象皮病)になります。炎症や静脈瘤、うっ滞製静脈炎による皮膚の色素沈着、難治性潰瘍、リンパ漏、水疱症、疼痛等も伴うようになります。
 老年性のリンパ浮腫の場合、多くの軽症例では、平滑筋細胞は変性まではしておらず、単に老化による収縮能力の低下が原因。でも、リンパ管炎等の感染を繰り返して重症化してしまった症例では、悲しい事に、平滑筋まで変性が及んでしまっています。もう、後戻りなんか、不可能な状況なんです。更には、重度のリンパ浮腫が10年以上継続すると、スチュワートトレヴェス症候群と呼ばれる、予後半年と言う非常に悪性度の血管肉腫が発生する症例があり、弁機能を含めたリンパ管の変性は、単に肥厚閉塞だけでなく、炎症・免疫異常に容易に移行してしなう可能性があるんです。

■浮腫みの弊害

 下肢での静脈血貯留の挙句に、浮腫が生じます。って事は、合計量が変わらないプラマイセロの閉鎖空間ですから、当然、心臓へ還流する循環血液量は減らざる得なくなります。臓器への血流が減少すれば、倦怠感や疲労回復の遅れ等の、全身症状に繋がります。更には、手足への血流はより著明に減少し、それがダイレクトに手足の冷えとなります。
 しかし、重症化すると、水疱が出来たり、皮膚が分厚くなって…ゾウさんの足(象皮病)になってしまいます。炎症や静脈瘤、うっ滞製静脈炎による皮膚の色素沈着、難治性潰瘍、リンパ漏、水疱症、疼痛等も伴うようになります。

■特殊な老年性リンパ浮腫

  • 廃用性リンパ浮腫

   高齢者に良く見られる浮腫ですが、車いすを使用したり、脳梗塞等の歩行障害が原因となる事も多いです。

  • うっ滞性静脈炎合併リンパ浮腫

   静脈瘤合併例、色素沈着、難治性潰瘍形成。

  • 水疱性(膿疱性)リンパ浮腫

   表皮の水疱形成や皮下浅層にリンパ膿疱を形成する事がある。

  • 人工関節置換術後リンパ浮腫

   膝関節や股関節置換術後に、たま~に発生してしまう浮腫で、多分、リンパ管の還流障害により起こった?

  • リウマチ性リンパ浮腫

   リウマチ発生と同じ機序でリンパ管還流障害が起こったのか、はたまた、リウマチの治療薬の弊害か?

  • 肥満性浮腫

   減量してもダメなら、LVA!

  • 致死性リンパ浮腫

   重症下肢リンパ浮腫症例で、蜂窩織炎を繰り返す例です。ある日突然、溶連菌性敗血症を合併し、死亡するなんて事も。他にも、患肢の脂肪組織の間に、抗生物質耐性ブドウ球菌体塊が息を潜めて棲息していて、それが、宿主の免疫力が落ちると、ラッキー♪って叫んでかどうかは分かんないけど、勢力を一気に拡大(=感染)を併発するなんて事もある…。LVAは、転ばぬ先の杖と十分なり得ます。死んでからでは遅い!んです。

 

■浮腫み対策

  • 保存的治療

   浮腫は、結局は地球の重力に屈する性質のもの。寝る時は、脚を高くする。日常生活では、弾性ストッキングを穿く。小まめに歩き回る事は、マッサージにもなります。

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   弾性ストッキングですが、起立時の足首の静脈圧は約80mmHg。って事は、強さ的には同程度を要求されるものですが、実際問題として、これを着用するのは無理! 精々40~50mmHg(弾性ストッキング クラスⅢ)が関の山で、中等度以上のリンパ浮腫の治療では、このレベルの弾性ストッキングが必須美容通信2011年2月号)とされています。しかし、然したる病気がない老人性の浮腫みになら、クラスⅡ(30~40mmHg)か、クラスⅠ(20~30mmHg)で十分です。

   医療用の弾性ストッキングに対し、所謂市販のストッキングは、弾性とか圧迫とかを謳いながらも、実はほとんどがクラスⅠ以下の代物。圧が弱いので、使い勝手が良さげなイメージですが、弾性が医療用に比して少なくて、硬いんです。更には、上端が窄まっていて、まるで輪ゴムで首絞めか?状態(笑)。上端の幅が広い医療用のクラスⅡ(若しくはクラスⅠ)で、且つ浮腫が軽度の症例では、脚の内部組織に過度な圧が及んでしまう可能性があるので、大きめのサイズを選ぶのがお約束。特に、男子は骨太で、脚自体が女子の様にぷよぷよでないので、1~2段階大き目サイズをチョイスするのがオススメです。

  • LVA
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   LVAとは、リンパ管閉塞部の遠位側で、リンパ液が淀んで溜池になってしまったリンパ管と静脈との間に、バイパスを作成し、リンパ液を静脈系から心臓に戻す手術美容通信2014年3月号)(美容通信2012年4月号)(美容通信2016年5月号です。煩わしい!圧迫療法から解放される、根治的な治療法です。

   確かに、前述の様な複合的な理学療法は、治療の基本となる正攻法の考え方です。しかし、それだけで解決するかと言うと…、老人性の浮腫では、徹底した理学療法を施行するのは、実際問題として不可能ですし、先にも述べたように、リンパ液の流れは、リンパ管自体の機能でほぼ決まり、周囲の筋肉運動や血管拍動・収縮の影響を殆ど受けません。手をこまねいて、重症化するのを見殺しにするのが果たして正しい対処なのか? 乳癌や子宮癌術後のリンパ浮腫ならいざ知らずと、未だ、外科的療法に懐疑的な立場を取るDr.もいるLVAですが、圧迫療法が出来ない症例や、効果が上がらない症例なら、大いに大歓迎だとHISAKOは思うんですけどね。実際、LVAを行う事で、圧迫療法を軽減出来、蜂窩織炎(美容通信2011年1月号)の発生が減り、術後長期に亘って浮腫が重症化しないんなら、上等以上じゃ~んって思います。特に、浮腫発生後早期の軽症なものでは、効果絶大!です。

 

緩和ケア期の浮腫み

 癌の術後等の治療後、つまり緩和ケア期(終末期)の浮腫は、悪液質等に伴う低蛋白性浮腫がメインですが、これにあんまり体を動かさなくなってしまう事による廃用性浮腫、乳癌等ではホルモン治療も行うので、その後の著しい体重増加=肥満性浮腫等も加わります。因みに、この緩和ケア期の浮腫は、HISAKOの様な乳癌や子宮癌の術後のリンパ浮腫(美容通信2003年9月号)(美容通信2011年1月号)(美容通信2011年2月号)とは違い、ほぼ左右対称の両側性で、比較的柔らかいのが特徴です。

 低栄養状態とは、血清総蛋白濃度6.0g/dL以下!、血清アルブミン濃度3.5g/dL以下!!の状態です。そんな栄養状態なら、血管内の膠質浸透圧がダダ下がり、挙句に、血管外にお水が溜まって浮腫んじゃうのも納得ですよね。この柔らかい!水分主体の浮腫液自体は、元々は偏在性などなく、全身にぼわ~んと溜まるものなのですが、それ故に、重力の影響を素直に受け、立てば、下に落ちる。仰向けに寝れば、背中に溜まる。つまり、蛋白濃度が低ければ低いだけ、大量の水が低きに流れ落ちるという特性を示します。

■浮腫み対策

 基本的には、然したる病的な原因がないにもかかわらず、脚の浮腫みに悩まされる老人達にする治療と、何ら変わるところがありません。

 


 

*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。

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