光接触皮膚炎 | 旭川皮フ形成外科クリニック旭川皮フ形成外科クリニック

HISAKOの美容通信2009年7月号

光接触皮膚炎

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病院やドラッグストアで販売されている、非ステロイド系消炎鎮痛剤系の湿布や塗り薬。
お疲れ足にヒラメ貼りなんて言葉が以前流行りましたが、実にお手軽にこの手のお薬が手に入るご時世、光接触皮膚炎(光アレルギー)もメキメキと増加の一途を辿っています。

 夏到来! 皆さん、紫外線対策は万全ですか? 怠ると、皺やシミの原因になるだけでなく、思わぬ所で痛い目を見る事があるんですよ。

 <光接触皮膚炎(光アレルギー)>って代物です。

 今月号は、中でも人気急上昇中の湿布に因るものに焦点を当てて、お話します。昔貼っていた湿布のツケが、忘れた頃にやって来る。ホント、悪夢の再来ですかね(笑)。

昔貼ってた湿布のツケ~忘れた頃にやって来る。

 先ずは、ピンと来ない人の為に、代表的な症例(久光製薬安全情報No.16より)を。
200907image509  右の写真は、50代の加齢臭盛りのおっちゃん♪ 左肘の腱鞘炎にモーラステープ20mgを毎日貼ってたんだそうです。1ヵ月位は何の問題もなかったようなんですが、ある日湿布を引っ剥がして、8月の炎天下、屋外プールで泳いだところ‥、痒み・カブレが出現! 仕方なしにモーラステープを貼り続ける事を断念し、皮膚の症状自体は改善傾向にあったそうです。貼るのを止めてちょうど1週間後、晴天下、薄い長袖で3時間草むしりをした所、絶えられない激しい痒みと共に、写真の様に湿布の形そのまんまに腫れ上がってしまったんだそうな‥。


 昔貼ってた湿布のツケ。後になって、おっちゃんの様に手痛い目に遭う人々は、意外に多いんですよね。  下の図を見てみましょう。処方薬としての湿布は結構色んな種類が出回っていますが、これはその一種類であるモーラステープ(久光製薬)だけのデータです。全製品(後述)についてのデータではありませんので、悪しからず。

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 しかしながら、この湿布による光接触皮膚炎、最近は、実は、若干減少傾向にあります。これは湿布の性能向上と言うよりも、製薬会社さんの啓蒙活動の賜物とはされておりますが、まだまだ、侮れないぞ! 

当たり前だけど、紫外線量に比例して被害者数も増減する。



 当然と言えば、当然の話なんだけど、やっぱ昨年もセオリー通り、紫外線量の多い5月~8月に多発していましたね。
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 つまり、光接触皮膚炎は、湿布を貼った部位さえ紫外線に当てなければ、回避が可能だって事。まあ、言うのは簡単ですが、4週間って長丁場、それもクソ暑い真夏と最悪の季節が重なりかねない訳ですからね。光老化対策も兼ねてと、ポジティブに捉えて頂くしか仕方ありません。尤も、一度光接触皮膚炎になっちゃった人は、4週間ではなくて、少なくても3ヶ月間程度の遮光が必要と考えられています。

 湿布を貼った部位は、必ず、紫外線が通り難い、例えばデニムの様な厚手の長袖、長ズボンを着たり、サポーターetc.でカバーしましょう。ガーゼやストッキング、白いブラウス等は、殆ど素通しと変わりないので、下には日焼け止めを塗ってからの着用がお約束。
 参考までに、お洋服についての補足をしておきましょう。布の紫外線遮断効果を決める3要素は、色と織りと素材です。色に関しては、一般的には、真夏に鬱陶しく感じられる様な暗い色、濃い色程、紫外線をブロック!

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 生地的には、ポロシャツに使われる鹿の子が紫外線のブロック率が高く、薄い生地や織り目が粗いガーゼ系は低くなっています。

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 素材的には、やっぱUVカットを謳っている繊維は、抜群のブロック率ですかね。

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 つまり、UVカットを謳った黒いポロシャツ姿が、ベストって事ですか‥。個人的には、洗い晒し感のある白いレーヨンのガーゼシャツって、涼しげで好きなんですけどね。でも、これは、紫外線遮断効果的には最悪の服装なんですが(笑)。

 日焼け止めの選び方は、以前美容通信(
美容通信2003年7月号美容通信2003年8月号)でも触れましたが光接触皮膚炎対策には、UVA遮断効果の高いPA+++がよりお薦め! 但しここで注意が必要なのは、モーラステープやエパテックゲルetc.の主成分である非ステロイド系消炎鎮痛剤のケトプロフェンは、日焼け止めに配合されている事が多いオキシベンゾン(別名:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン ベンゾフェノン-3)って成分に、親が間違う位の超そっくりさん(交叉感作性)。それ故に、紫外線を避ける為に折角塗った日焼け止めで、カブレるなんて笑えない悲劇もあり得る! 日焼け止めを購入する際には、成分チェックもお忘れなく!!
 でも、そうまでして選んだ日焼け止めだけで、完全な遮光が可能かと問われると‥、実際問題として、不可能。規定量である2mg/cm2を塗るなんて殆ど塗り壁状態で恥ずかしくて外歩けないし、汗を掻いても崩れるし、汗をハンカチで拭っただけでも剥げ落ちる(笑)。‥そうなると、手首や足首、首筋と言った、洋服等での遮光サポートが中々期待出来ない様な場所については‥、太陽が燦々と照りつける状況での屋外スポーツやお散歩、野良仕事はちょっとお休みするしかない。宵闇に紛れて楽しみましょう(笑)。
 あ、日焼け止めに対しての補足ね。先程、規定量は2mg/cm2って書きましたが、具体的には、顔全体の面積なら、クリームタイプでパール玉2つ分(約0.6g)。ローションタイプなら1円玉硬貨2枚分(0.6ml)。(下図;出典:文光堂”1冊でわかる光皮膚科”より)

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 結構な量でしょ? 因みに、世の中の一般ピープルが塗ってる量は、規定量より笑っちゃう位少なくて、平均で0.392mg/cm2。つまり、5分の1の量程度なんだそうです。規定量の半分しか塗らないと、効果はSPF値では20~50%に減る。‥ん、じゃあ、規定量の5分の1なら‥、その効果は推して知るべし!?

最近、何故に被害が急上昇中なの?

 非ステロイド系消炎鎮痛剤、つまり、ケトプロフェン(商品名:モーラステープ、エパテックゲルetc.)、スプロフェン(商品名:スルプロチン軟膏etc.)、ピロキシカム(商品名:バキソ軟膏、フェルデン軟膏etc.)等を含有する塗り薬や貼り薬でも、光接触皮膚炎が起こります。

 中でも、ケトプロフェン製剤による光接触皮膚炎が、最近人気急上昇中(笑)。これは、元々湿布タイプのものは、モーラステープとして1988年に久光製薬から発売されていたんですが、発売当初はケトプロフェン含有濃度が3mg/gしかなかったんです。つまり、パ~っとしない存在でしかなかったんです。ところが、1995年にニューリアル発売されたのが、約7倍の含有濃度である20mg/g。これにより、鎮痛消炎効果が飛躍的にUPし、整形外科領域で引っ張りだこに。押しも押されぬ湿布界の王者として、モーラステープは不動の地位を確保しました。これに伴い、ケトプロフェンによる光接触皮膚炎の被害も鰻登りに増加となった次第。
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 それに世の中には、2匹目の泥鰌を狙う輩が多数おりますから、湿布以外にも、ケトプロフェンを含有するクリームやゲルと言った塗り薬があり、後発品(ジェネリック)まで含めると、病院で処方される薬だけでも、ざ~っと思いつくままに列挙しても、下記に示す通り。

  • 貼り薬
  •  モーラス30(久光)・ケトタックス(ラクール)・ケトラニール(三友)・タッチロン(救急薬品工業)・ニックールK(マルコ)・ミルタックス(第一三共)・リフェロン(沢井)・モーラステープ(久光)・ケトテックステープ(ラクール)・パテルテープ(大石膏成堂)・ケトプロフェンテープ(マルコ)・タッチロンテープ(救急薬品工業)・フレストルテープ(東和)・ライラテープ(テイコクメディックス)・レイナノンテープ(シオノケミカル)・ロマールテープ(富士カプセル)・ペステックテープ(前田薬品工業)

  • 塗り薬

  •  エパテックゲル/ローション/クリーム(ゼリア)・セクタークリーム/ゲル(久光)・セクターローション(久光)・メナミン軟膏(中外)

     これに、ドラッグストアーで販売されている一般医薬品を加えると、その数は膨大!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!となると思われます、はい。  
       
     更に、ケトプロフェンに一度でも虐められた過去がある(感作)と、全然違う系列のスプロフェンやチアプロフェン酸を使っただけのなのに、体が間違え(交叉反応)て皮膚炎を起こしちゃう事も。又、前述の日焼け止めに配合されている事が多いオキシベンゾンも、交叉反応を起こす物質ですので、お気を付け下さいませ。

原因は、光アレルギーだ!

 光線過敏を起こす化学物質には、植物・殺菌剤・香料の他、医薬品、つまり病院や薬局で処方されたり購入した所謂”お薬”も含まれていて、現在までに膨大な数の光毒性反応、光アレルギー反応の報告が出ています。光毒性反応は、感作期間を必要としない為に、お薬を飲んだり塗ったりした直後に、そのままふら~っと太陽が燦々と照っている屋外に遊びに行っただけでも、湿疹・皮膚炎を起こします。これに対し、光アレルギー反応には、予めの感作が必要。つまり、湿布を貼った人、全員が全員なれるって代物ではなく、選ばれし人々だけの病気。しかしながら、選ばれし人々って奴は意外にも多く(笑)て、臨床的には殆どが光アレルギーが原因なんですけどね。
 光アレルギーに関しては、プロハプテン説と光ハプテン説の2つの説がありますが、この湿布による光接触皮膚炎は、下図の様な光ハプテン説が解明されています。紫外線によりケトプロフェンの化学構造の一部が光分解され、その分解と同時に近くの蛋白と共有結合し、完全抗体が出来上がると言う機序です。

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 湿布の形で皮膚に貼られた薬剤は、皮膚のケラチノサイトとランゲルハンス細胞まで染み込みます。ここに紫外線のうちでも長波長であるUVAが当ると、これらの細胞は暴君と化し、光抗原を担う様になるんですね。ですから、一度光接触皮膚炎を発症してしまったら、特にUVA遮断効果の高いPA+++の日焼け止めを選択しつつ、日陰の女人生を最低3ヶ月は送って貰うしかありません。そうじゃないと、不吉な予言と思われるかも知れませんが、湿布を貼ってた事自体が忘却の彼方と化していようとも、ある日突然、紫外線に暴露するだけで症状が再燃し、遷延化します。論文によると、動物実験では、ケトプロフェンの皮膚残留が少なくとも実験終了後49日目までは認められ、接触皮膚炎を司るメモリーT細胞は60日目でも存在が確認されたんだそうな。

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 確定診断は、光パッチテスト。まあ、陽性反応が出れば確定は出来るけど‥、陽性度が低く、例え陰性だったとしても、怪しい薬リストからは外せないのが、難っちゃ難。
 方法は意外に簡単。布やアルミ皿etc.を絆創膏の上に乗せたパッチテストユニットって物があるので、この上に試薬を乗っけて、ぺたんと背中に左右対称に貼ります。24時間したら、片一方だけを引ん剥いて、紫外線(通常UVA3~6J/cm2)を照射。即行、再度遮光し、48時間後、72時間後、1週間後に夫々覗いては、左右で比較検討をして判定(一般的には、判定基準(ICDGR(International Contact Dermatitis Research Group)基準を適用)を下します。-:反応なし +?:紅斑のみ +:紅斑+浸潤(丘疹) ++:紅斑+浸潤+丘疹+小水疱 +++:大水疱

他所の人から、湿布は貰ってはいけない!

 湿布による光接触皮膚炎の最大の特徴は、家族やお友達からの譲り渡しで被害を被る率が極めて高い事。通常なら、処方された湿布薬で光接触皮膚炎が起こる可能性について、病院や薬局から注意喚起がなされるもんなんですが、譲り渡しの場合は、多くは渡すのは湿布薬だけ。この重大な副作用についての説明までは、伝えてくれてないんですよね。


 ここで、実際に被害に遇ってしまった小娘の悲劇を載せておきます(久光製薬副作用報告より)。

 この10代の女の子は、モーラステープ20mgを1枚友達に貰って、痛かった左膝に貼ったそうです。翌日オバさじみた湿布を引っ剥がし、何食わぬ顔で、太陽の下、ミニスカ・ギャル生活を楽しんだところ、ナント、湿布の形そのまんまに真っ赤に腫れ上がりました。「きっと湿布にカブレたんだわ。湿布さえ止めれば、放っておいたって、あたしはピチピチの10代ギャルだから、きっと直ぐ治るわ!」と、オバさんが耳にしたらムカつく様な事を言ったかどうかまでは分りませんが、兎に角、放置プレイをしていたようです。しかし、流石に能天気なギャルとは言え、4日も経っても一向に治る気配がないので、不安に駆られて漸く病院を受診。ステロイドの塗り薬を処方されました。ところが、幾ら薬を塗れども、汁でグジュグジュになった傷は、次第に領土を拡大。1週間も経たない内に、全身に飛び火。痒みも鰻登り。抗アレルギー薬の注射と内服を追加されても、焼け石に水状態で、11日目には頭の皮を除く全身にまで波及してしまったそうです。入院して、ステロイドの点滴と内服を受け、1ヶ月ちょっとで、漸く、茶色のダルメシアン柄の色素沈着を残す程度に改善したんだとか。(病名:光接触皮膚炎+接触皮膚炎症候群)。
 ところが、この話はこれだけでは終わりません。女の子は懲りない性分と言うか‥、脳みそも完全ギャル化していたらしく、7ヶ月もすれば、苦しかった入院生活も忘却の彼方。ぺろっと忘れて、又、モーラステープ20mgを貼ったんだそうです。今度は右手の親指だったそうなんですが、歴史は繰り返す。悪夢の再現。顔、両腕と、薬疹はあっという間に拡大。再びステロイドの全身投与で、漸く生還したんだそうな。勿論、茶色のダルメシアン柄の色素沈着は、3ヶ月しても残ったまんまらしいけどね。

 ‥小娘を「アホ」と嘲笑った貴女、次は貴女の番かも知れませんよ(笑)。

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 さあ、左の図を見てみましょう。ここで記載されている”拡大”とは、前述の小娘の様に、湿布を貼った部位のみならず、皮疹が全身にまで拡大した例(拡大症例)を意味します。譲り渡し例では、格段に拡大割合が高くなっていますよね? 病院や薬局から注意喚起の有無が、明暗を分けていると考えられます。

 そして、もう一言。この譲り渡しによる光接触皮膚炎の特徴に、10代が多いのも忘れてはいけない事実。

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 右下の図の様に、ナント、半数以上(50.5%)が、10代の小娘・小僧なんです。まあ、何せ、やんちゃ盛りのお年頃。屋外での遊び、体育祭、プール・水泳、サッカー、テニス、野球等のスポーツの機会が多く、更には夏場軽装での学校行事も加わって、正に紫外線シャワー浴び捲くり生活! 下図は、”モーラステープによる光接触皮膚炎発現時の紫外線に当った状況(露光イベント)(1995年12月~2006年12月)(久光製薬安全情報No.16より)”。‥全く、優雅なもんだよな、ガキは!!と思っちゃうのは、社会人の悲しい性?

年代別 ~19歳 20歳~
光接触皮膚炎 報告件数227 割合(%)100.0
報告件数792
割合(%)100.0
露光イベントが報告されているもの
119
52.4
286
36.1
屋外スポーツ
プール・水泳 24 10.6 19 2.4
野球・ソフトボール 16 7.0 4 0.5
体育祭 15 6.6 9 1.1
テニス 14 6.2 31 3.9
サッカー 10 4.4 0
部活動・体育の授業 10 4.4 0
ゴルフ 0 39 4.9
マラソン・ジョギング 0 5 0.6
マリンスポーツ 0 2 0.3
その他 11 4.8 9 1.1
屋外レジャー 海水浴
9 4.0 36 4.5
釣り 2 0.9 2 0.3
講演・遠足 2 0.9 0
キャンプ・ピクニック 1 0.4 2 0.3
野外ライブ・野球観戦 1 0.4 2 0.3
旅行 0 7 0.9
川遊び 0 3 0.4
温泉 0 3 0.4
屋外活動 農作業・園芸etc. 4 1.8 87 11.0
その他 運転 0 14 1.8
日光浴・日焼けサロン 0 7 0.9
その他 0 5 0.6

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 やっかみは別にして、小娘・小僧ってものは、本来、遊ぶのが仕事みたいなもんだから、目白押しに行事が詰まっているのは当たり前。でも、更に拍車を掛けているのは、若さ故の健康神話(≒病院に態々行くのが面倒臭い≒老人の様に病院をサロンと考えていない)と、蟻んこみたいに集団生活を基本とする、余りにも手軽に譲り渡しが可能となちゃう環境の存在も、忘れちゃいけません。
*註:HISAKOの美容通信に記載されている料金(消費税率等を含む)・施術内容等は、あくまでも発行日時点のものです。従って、諸事情により、料金(消費税率等を含む)・施術内容等が変更になっている場合があります。予め、御確認下さい。


※治療の内容によっては、国内未承認医薬品または医療機器を用いて施術を行います。治療に用いる医薬品および機器は当院医師の判断の元、個人輸入手続きを行ったものです。

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